自治体職員の読書ノート

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【2234冊目】羽田圭介『コンテクスト・オブ・ザ・デッド』

 

コンテクスト・オブ・ザ・デッド

コンテクスト・オブ・ザ・デッド

 

 



又吉直樹との芥川賞同時受賞で有名になり、テレビにも出まくっていた著者の受賞代一作は、なんと「ゾンビ小説」であった。

ゾンビ化が進む日本を舞台に描かれるのは、日本の文壇事情、「空気を読む」ことばかりが大事にされる社会の風潮・・・・・・。つまりこれはある種の「風刺小説」なのである。

もっとも、読んでいて気になったのは、全体を通して、風刺にしては著者のメッセージが全面に出過ぎていること。最後の方で明かされる「ゾンビになる人の条件」も、申し訳ないが陳腐そのもの。夏目漱石がゾンビになって甦るなど、面白い方にいくらでも展開できそうなのに、パニック小説としても中途半端、残念な説教小説になってしまっている。だからケースワーカーの新垣が内心つぶやくこんなセリフも、出し方によっては深くうなずけたかもしれないが、この「コンテクスト」では平凡で安易なものにしか見えてこない。

「どの民間企業にも就職できたバブル期に、弁護士資格試験よりはるかに低レベルだった公務員試験に受かり今に至っているだけの、ここ以外の職場では使いものにならず意思の疎通もはかれない人間が、弁護士をさしてなんと言った? 同じ公務員でさえ、今の世代はバブル期よりも高い競争倍率を勝ち抜きこの職に就いている」(p.84)

 



筒井康隆ならこの題材をどう書いただろうかと、読みながら何度も思ってしまった。『大いなる助走』はゾンビなど登場しないが、はるかにクレイジーでスリリング、しかも痛烈な文壇批判になっている。この半分の量、この半分の登場人物で、この3倍濃密な作品が読んでみたい。

では最後に、今読んでいる本から、村上春樹が語っているコトバをひとつ著者にプレゼントしたい。なんでも書けばよいというものではないのである。

「優れたパーカッショニストは、一番大事な音を叩かない。それはすごく大事なことです」(村上春樹川上未映子『みみずくは黄昏に飛びたつ』p.36)