自治体職員の読書ノート

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【1693冊目】酒井穣『はじめての課長の教科書』

はじめての課長の教科書

はじめての課長の教科書

テーマ読書は一休み。閑話休題な一冊。

いや、別に課長になったワケじゃないんですがね。っていうか、ワタシもまあ、管理職試験を受けられる年回りになってきまして、周囲からは受けろって言われたり、課長なんてなるもんじゃないって言われたり、まあ何が何だかワケが分からなくなっちまいましてね。え、そんなもんテメーの人生なんだからテメーで決めろって怒られちまいそうですが、それがまた、なかなか難しくって。いろんな本を読んで余計な知識のぜい肉ばっかりつけていて、いざ自分のこととなると情けないくらい悩んで迷ってアタフタしている、そんな程度の小物でございまして、実は。

で、まあ、どうせならこの手の本も一度読んでみようかということで、ですね。この手の本っていうのは『はじめて課長になったら読む本』とか『あたりまえだけどなかなかできない課長のルール』とか『そうか、君は課長になったのか』とか、ビジネス書コーナーでずっと平積みになっているような例の連中のことですが、なった時にどういう視界が開け、どういうスタンスで物事を考えることになるのか、例によって本でシミュレートしてみようと。で、本屋で何冊かをパラパラやった結果、とりあえず本書が一番しっくりくる感じだったので、購入したワケです。

あ、ちょっと脱線しますが、この場合の「しっくりくる」というのは内容というよりも体裁であったり、文章のリズムであったり、さらには装丁やフォントや目次立てなどの全体的な印象のことでして、本書は特に、語りかけるような口調やクリアな文章、文字の詰まり方などがバランスよく感じたのです。こういうのは著者の努力もさることながら、版元のブックデザインの総合力が問われるもので、案外バカにできないのですよ。

ということでざっと読んでみたのですが、うんうん、「ホンネ」の部分がけっこうしっかり書いてあって、教科書というわりにはあまり「表向き」ではないのが良いですね。「可能である限り、課長は部下の失敗を部長や経営者には隠すべきです」なんて、いいじゃないですか。味がある。

つまるところ、著者は、組織のありようを具体的で生身の「人と人とのつながり」として捉えているんですな。とすれば課長は「親分」であって、親分である以上、部下をかばうのは当たり前だと。他のところでは「組織の基本は人にあるのですから、経営者には「人」にフォーカスした経営をしてもらいたいものです」とも書いています。まあ、どこぞの某企業を念頭に置いているのかもしれませんが、言っていることは賛成です。役所も会社も、結局は血の通った生身の人間によって成り立っているワケですから、そこを直視しなければ組織経営なんぞありえません。

特に面白く読んだのは第4章「避けることができない9つの問題」。ここでは課長が必ずぶつかる難題を取り上げているのですが、「問題社員が現れる」にはじまり「部下が「会社を辞める」と言い出す」「心の病にかかる部下が現れる」、さらには「ベテラン係長が言うことを聞かなくなる」なんていうのもあったりします。う〜ん、いかにもありそうですが、実際に解決しようとなると、どれも超難問ですよね。著者がこれらの問題をどう料理しているかは、ぜひ本書に直接あたってください。

ということで、課長としての心構えやリスク・マネジメントの基本をまとめた本としては上々の一冊だと思うんですが、さあ、自分のことに置き換えてみると……さあ、どうしたものでしょうか。ここに書いてあるようなコトがお前にできるのかと問われれば、正直あまり自信はないのですが、でも何とかなりそうな気もしてくるのです。

当たり前のことですが、結局は自分が自分で見えているかどうか、なんですね。分かってます。本はあくまで一般論。それを自分の中にどう落とし込むかは、読み手の自己認識と自己理解にかかっているのです。そこを直視せずに何千冊、何万冊の書を読もうとも、消化されることなくそのまま排泄されるだけでしょう(汚いたとえでゴメンナサイ)。

本を読むとは、自己という粘土が本という突起物を押し当てられて形が微妙に変わる、その変化を読み取ること。この「読書ノート」も、要するにやっていることは、本が自分に残した痕跡を探して文字化しているだけなのです。その点、自己を頑なな殻に閉じ込めたままでは、どんなに素晴らしい本を読んでも何も変わらないんですよね。あ、ごくまれにそうしたつまらない殻さえ吹き飛ばしてしまうような本もありますが、まあ、滅多に出会えるもんじゃありません。

なんだか最後は読書論になっちゃいましたが、本書は殻を吹き飛ばすほどの破壊力はないにせよ、決して悪い本じゃないと思います。課長になろうか迷っている人にも、あえてオススメしておきます。私は個人的なレベルで、いろいろヒントや指針をいただきましたよ。それがどこかは……ヒ・ミ・ツ。