自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【1361冊目】榊原洋一『自閉症の正しい理解と最新知識』

自閉症の正しい理解と最新知識

自閉症の正しい理解と最新知識

自閉症や、それと共通した症状がある人は、国民の1.5%に及ぶという。ところが自閉症ほど周囲に理解されにくく、誤解されやすい障害もちょっと少ないように思う。

空気が読めない、会話が苦手、人に対する関心が薄いなど、一見性格上の問題と捉えられやすい特徴が多く、単なる育て方の問題や個性と見られることも多い。知的障害を伴わないタイプも少なくない(いわゆる「高機能自閉症」など)一方、特定の分野について極端にすぐれた能力を発揮することもある(サヴァン症候群)ため、障害としての認識がされづらい。

しかしこれは、レッキとした先天性の脳機能障害なのだ。本書によれば、脳の「右の側頭葉」「前頭前野」「扁桃体」などの働きが乱れることにより、脳がいろいろな情報をうまく処理できなくなった状態を自閉症と呼ぶらしい(p.68)。

ここで「先天性」を強調するのは、こうした研究がなされるまで、自閉症は「育て方の問題」とされてきた時期があったからである。親の愛情が足りないとか、しつけができていないといった指摘が親に向けられ、親は子供の障害と周囲からの非難のダブルパンチという過酷な状況に置かれていたのだ。いや、今でも自閉症についてよく知らない人は、そういう目で自閉症児の親に非難がましい目を向けているのではなかろうか。

本書はこうした自閉症について、特徴から療育、サポートに至るまで幅広く解説している一冊だ。イラストを多用し、たいへんわかりやすく書かれているので、自閉症児をもった親にとってはもちろん、身の回りに自閉症をもった人がいる方は、一度読んでおくとよいだろう。かく言う私も、最近ある自閉症の方と接触する機会があり、自分自身の無理解に嫌気がさして本書を手に取ったのであるが。

ちなみに世の中には自閉症者を主人公にしたドラマや小説がいくつかあるが、他の障害と同じく、自閉症といってもいろんなタイプがあり、なかなかひとくくりにできないものがある。ある自閉症児の親御さんは「あんなドラマで自閉症のことが分かったつもりになられちゃ困るのよね」と仰っていたが、まったく同感。まったくの無理解では話にならないが、中途半端に分かった気になってしまうのもまた問題なのである。

もちろん、多様性については十分承知の上で、そうした本に手を伸ばすのはアリだろう。ちなみに、最近は自閉症の方の自伝もいろいろ出ており、これも貴重な「内側からの記述」として理解の一助になるだろう。

だがまずは、一部のケースを知っただけで全体を知った気にならないためにも、こうした目配りの広い一冊から入りたい。ちなみに著者は、東大医学部付属病院で発達障害児の医療に長年携わってきた方。その「現場の目」は、本書のいたるところで感じることができる。