自治体職員の読書ノート

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【1276冊目】石田衣良『カンタ』

カンタ

カンタ

耀司はスポーツ万能で成績優秀、常に学級委員になってきたような少年。一方のカンタは、数字に対する感覚は抜群だが、他人の気持ちやまわりの雰囲気を察するのが苦手で、どうしても周囲から浮き上がってしまう。なにからなにまで対照的な二人は、しかしお互いに支えあい、補いあう親友だった……。

本書はこの二人の生い立ちからはじまり、わずか19歳での起業、爆発的な成功、そして墜落というビジネスのジェットコースターに翻弄されるさまを描いていく。携帯電話の普及や進化、格差社会の出現といったちょうど2000年前後の社会事情を背景に、ビジネスの奔流に巻き込まれていくくだりは、まさにライブドア事件村上ファンドなどのエピソードそのまま。特に、時間外取引による強引なTOBが世間の反感を買い、アングラマネーの流入もあって一気に耀司らが追いつめられていくさまは、どこかで聞いたような話を裏側から見せられているようで迫力満点。

しかし一方で、本書はそういった「冷たい」ビジネスの世界という縦糸に、耀司とカンタたちの友情を横糸として織り込むことで、物語にふくらみとあたたかみをもたらしている。特に、周囲の環境が殺伐としているだけに、カンタの無邪気で素朴なキャラクターには救われるものがある。

そういえば著者は、以前『波のうえの魔術師』という作品で、株取引の世界を書いたことがあった。本書は、テーマとしてはその流れに属するが、カンタという存在をそこにぶつけることで、金儲け一辺倒の金融ビジネスの世界へのひとつのアンチテーゼを示したのかもしれない。金より大事なもの、などというと陳腐だが、金儲けの極限を体験した耀司とカンタの目を通すと、その答えがなにより説得力をもって見えてくる。

それにしても、今なお金融の世界で荒稼ぎをしているヘッジファンドの連中にも、耀司とカンタにとっての「ロケット滑り台のある公園」のような現風景があるはずなのに……。しかし本書でも、そういう子供の頃の原風景を最後まで忘れなかったのは、カンタだったのかもしれない。しかし、そんな原風景こそが、実は誰しもが戻るべき場所のはずなのだ。

波のうえの魔術師 (文春文庫)