【1277冊目】本田良一『ルポ生活保護』

- 作者: 本田良一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2010/08
- メディア: 新書
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生活保護の実態を通して、日本の「貧困」に迫る一冊。
前半で生活保護制度の現状が整理されているが、ここでわかるのは、生活保護以外のさまざまなセーフティネットが(近年かなり改善されてきているとはいえ)そうとうに脆弱であること、生活保護がその矛盾を引き受ける受け皿になってしまっていることだ。最近、保護費の増大が問題となることが多いが、その大きな要因として、他の制度(雇用保険や年金制度など)で引き受けられるべき負担が生活保護に負わされている、という現実があることもよくわかる。
一方で、生活保護制度自体にも矛盾が多い。保護費抑制のための「水際作戦」「硫黄島作戦」、所持金をわざわざ「使わないと」受けられないこと、保護を受けると車が持てないため、かえって就労が妨げられていること……。本書は、そうした現行制度の問題点をひとつひとつ深彫りしていくとともに、その枠内ですぐれた成果を挙げている例を示す。中でもメインとなっているのが、釧路市の自立支援プログラムだ。
多くの自治体で行われている自立支援プログラムの多くが就労支援に重点をおいているのに対し、釧路市の特徴は、就労と同時に「社会的な居場所」をつくることを目指している点だ。そのためもあって、釧路市では就労支援に至る前に社会奉仕やボランティア体験などのステップを置き、その受け皿として企業やNPOが多く参加している。受給者はボランティアや就労体験の中でこうした団体と結びつきをつくり、その中で社会的な関わりを作り、社会生活の自立が可能になるという仕組みである。
とりわけ驚いたのは「冬月荘」で行われている無料の進学勉強会。ここでは生活保護を受けている家庭の子どもを対象に勉強を教えているのだが、そのチューター役として、二人の生活保護受給者が関わっているのである。
ほかにこうした取り組みがどれくらいあるのかわからないが、こうした「受給者が受給者(の子ども)に教える」といったアプローチは、とんでもなくすばらしいと思う。彼らがそれによって収入を得ているのかどうかはわからないが、少なくともチューターを務めることで、彼らは「居場所」を得ることができ、「人に評価される」ことができるのである。
中島岳志氏はこれを見て「『社会的包摂』政策のすばらしい実践例」と絶賛したというが、まさにそのとおりだろう。仕事に就くことも確かに大事だが、生活保護を受けている方々の多くに共通するのは、周囲の社会からはじかれ、排除されてしまっているということだ。それをこのようなやり方で解決するというのは、画期的な取り組みなのではなかろうか。
他にも、本書で紹介されている釧路市の取り組みには参考になる点がたいへん多く、また「自立」ということの意味についてもいろいろ考えさせられる。いずれにせよ、現行の制度の枠組みの中でもこれだけのことができるというのは、なかなかに勇気づけられるものがある。うかうかしてはいられない。