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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1050冊目】樋口毅宏『民宿雪国』

民宿雪国

民宿雪国

新潟のさびれた民宿「民宿雪国」と、そのあるじ丹生雄武郎をめぐる4篇。

筒井康隆を思わせるスラップスティック風の「吉良が来た後」、性同一性障害のジャーナリストを語り手とした切ない一篇「ハート・オブ・ダークネス」、2つの回想風の語りの中に思わぬ仕掛けを織り込んだ「私たちが雪国で働いていた頃」と続き、第4篇はなんと本書全体の半分を占める「丹生雄武郎正伝」。それぞれの話の中にいろいろな仕掛けやどんでん返しが組み込まれている上に、小説全体も、最初の3つの話が最後の話の伏線となっている、という二重・三重の入れ子構造になっている。

最初の3篇だけでも相当面白いが、圧巻はやはり「丹生雄武郎正伝」。正伝と言っても、最初に書かれた丹生の生涯が偽りのものとして次々に否定されるので驚かれませんよう。騙りに次ぐ騙り、虚構に次ぐ虚構の果てに待っているのは、なんと日本の戦争と昭和史を背景とした濃厚な恋愛ドラマ。特に「民宿雪国」の由来が明かされるくだりは感涙モノ。

いかにも「つくりもの」めいた筋書きと、ややトリッキーな仕掛けが鼻につくが、そんな粗探しをしていられなくなるような強烈なパワーとパンチがきいた一冊。どんでん返しを重ねつつ複雑な構成を一気に読ませる筆力、エロもグロも笑いも涙も一切合財をぶちこんでミキサーにかけたような強烈な展開、丹生という一人の人物の中に折りたたまれた人生の広がりと深み、どれもこれも相当なものである。しかもちゃんと「エンターテインメント」しているのがすばらしい。いやはや、楽しめました。今後が楽しみ。