自治体職員の読書ノート

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【849冊目】菅正広『マイクロファイナンス』

マイクロファイナンス―貧困と闘う「驚異の金融」 (中公新書)

マイクロファイナンス―貧困と闘う「驚異の金融」 (中公新書)

マイクロファイナンスの源流はバングラデシュにある。ノーベル平和賞を受賞したムハマド・ユヌスが創始したグラミン銀行が実施する、貧困層の女性向けの無担保・無保証の少額融資である。融資を受けた女性は自分でできる小さなビジネスを始め、貧困から脱却するチャンスを得る。銀行は単に融資の審査と回収をするだけではなく、事前審査から融資後に至るまでの間、借り手をサポートする。債務不履行率はわずか2%という、まさに「奇跡の金融システム」である。

世界の最貧国のひとつであるバングラデシュで始まったため、これは途上国向けのもので、先進国には縁のない話と思われがちだが、実はこのマイクロファイナンスという仕組みは欧米諸国に次々と導入され、貧困対策として大きな効果を挙げているという。本書はこうした現状に光を当てる一方、「マイクロファイナンス後進国」となってしまった日本でのマイクロファイナンス導入について考察する一冊。

こうした少額融資のシステムは、実はかつての日本では各地に存在していた。無尽や頼母子講といった地域コミュニティに根ざした資金調達システムである。しかし、コミュニティが解体し、一方で「一億総中流化」が叫ばれた高度成長下の日本では、こうした仕組みは徐々に衰退していった。総所得の上昇と社会の均質化が、こうした金融システムを不要にしていったともいえる。

ところが、近年になって「格差」が拡大し、いわゆる貧困層が占める割合がどんどん大きくなっている。生活保護制度は財政的にも人員的にもパンク状態。しかも単なる給付制度だけでは、貧困から抜け出すことは難しく、いわゆる「貧困の再生産」が起きてしまう。必要なのは、まとまった額の金を借り受けて起業や就職の資金にし、返済義務をバネにして貧困から脱却する、という、従来の貧困対策から一歩進んだシステム。つまり、マイクロファイナンス的な仕組みの必要性が、極めて高くなっているのだ。なのに今の日本には、マイクロファイナンスはほとんど存在していない……というのが、著者の主張だ。確かに、社会福祉協議会が実施している生活資金やごく少数のNPOバンクのようなものはあるが、生活保護制度を相方とした「車の両輪」の一方として貧困対策を担いうるだけのものは、残念ながら見当たらない。

本書の後半は、諸外国の事例を参考にしつつ、日本版マイクロファイナンスの構想を提示している。いろいろ課題はあるが、特にキーポイントになりそうなのが、担い手となる金融機関の存在だろう。地域密着の信金・信組、日本政策金融公庫、それにゆうちょ銀行など、公益的側面と金融ノウハウをあわせもつところが日本にはいろいろあるので、ぜひ手を挙げていただきたいものだ。あとは、返済を担保するための仕組みづくりをどうするか。グラミン銀行の初期の事例では、5人程度の女性をグループ化し、一人が返済を終わらないと次の人が融資を受けられないようにして、いわば「仲間の圧力」を利用して債務不履行率を減らしたが、これでは融資の機動性があまりにも悪すぎる。重要になるのは、「地域」と「信頼」。つまりは、当該地域コミュニティのソーシャル・キャピタルの醸成をいかに図るか。コミュニティの問題と貧困の問題は、こんなふうにもつながってくるのである。