自治体職員の読書ノート

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【773冊目】稲継裕昭『プロ公務員を育てる人事戦略』

プロ公務員を育てる人事戦略―職員採用・人事異動・職員研修・人事評価

プロ公務員を育てる人事戦略―職員採用・人事異動・職員研修・人事評価

『月刊ガバナンス』での連載をもとに、人事にまつわるトピックを解説した本。採用・異動・研修・評価と、自治体職員(およびその志望者)にとっては見逃せないテーマがつまっている。

そもそも、多くの自治体で人事というのはブラックボックスの最たるものになっている。特に、職員にとってきわめて重大な「異動」については、職員当人はおろか、大半の管理職もその中枢にはほとんどタッチできない。人事担当課がそこでは「絶対権力者」なのである。

もちろん、全員の異動希望をかなえることなど不可能だし、そうであれば誰かが「憎まれ役」になってでも一手に采配をふるったほうが公平だし平等である、というふうに理解することもできなくはない。しかし、機械的で本人のキャリアデザインも何もないような人事異動がどれほど職員の意欲を削ぎ、ひいては自治体の活力を低下させていることか。

だいたい、ジェネラリスト志向の人事異動そのものが、ひょっとしたら分権時代の自治体にはマッチしていないのではないだろうか。決められた業務を決められたとおりに執行していればよかった時代であれば、そうした人事異動にも合理性があった。しかし、そこから一歩踏み込んで独自の政策を立案していかなければいけない、言い換えれば「霞ヶ関並み」の政策立案能力が求められるのが、分権時代の自治体職員であるはずだ。そのためには、一定程度の「専門性」は不可欠である。全員がスペシャリストになれ、とはいわないが、少なくともジェネラリスト志向とスペシャリスト志向を職員が選択できるような仕組みは必要だと思う。本書で取り上げられている静岡県の「キャリア調書」はまさにそのような取り組みであり、面白い。

ほかにもルーチンワーク化したおざなりな「研修」、形骸化した「人事評価」など、人事をめぐってこれほどいろんな問題があったのか、と思わせられるほど本書の指摘は厳しい。しかし、考えてみればそうした「厳しい視線」ほど、従来の人事担当課に無縁のものはなかったのではないか。住民の目が直接行き届くわけではなく、職員に関することであるから議会の目も届きにくい。そうでなくとも「カネ」と「ヒト」はどんな組織でも「力の源泉」である。自分たちの力を削ぐような「改革」を、人事担当課に期待するほうが無理である。

もっとも、人事や研修に携わる職員にも、このままではまずいのではないか、という漠然とした危機感をお持ちの方はおられることと思う。おそらく、本書がターゲットとしているのはそうした「志ある」人事担当職員である。そこに向けて著者が放つキーワードは「自学」。職員が自ら学ぶように、意欲を掻き立て、あるいは導き、あるいは報いること。そのための環境づくりこそが採用であり、異動であり、研修であり、評価なのだ。一方、そうした「志ある人事担当課」に恵まれない多くの自治体職員も、まずは「自学」に励むことが肝要、ということになる。異動や評価に文句ばかり言っていても仕方がないのである。