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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【403冊目】山岸俊男「社会的ジレンマ」

社会的ジレンマ―「環境破壊」から「いじめ」まで (PHP新書)

社会的ジレンマ―「環境破壊」から「いじめ」まで (PHP新書)

社会的ジレンマ」とは、個々の人が目先の利益だけを考えて行動することによって、かえって全体の利益が損なわれ、個々の人にとっても不利益となってしまうような状況をいう。しかもやっかいなことに、だからといって一人だけが目先の利益を追うことをやめると、その人はさらなる不利益を負う。いわゆる「共有地の悲劇」もこれに含まれる。コミュニティ等において特に頻繁に現れるため、自治体にとっても他人事ではない。

たとえば、みんなが車を使うことで渋滞が引き起こされるが、だからといって一人だけが車をやめて、例えばバスに乗り換えたとしても、その人は混んだバスの中でさらに渋滞に巻き込まれるというさらに悪い状態に陥る。だったらエアコンを利かせた車の中で音楽でも聴きながら渋滞にはまっていた方がまだマシである。だからみんなが車に乗り、結果として渋滞がひどくなる。こうして「社会的ジレンマ」状況ができあがってしまう。

この種の難題を解決するにはどうすればよいのか。その答えを、社会学上の実験から模索しようとするのが、本書である。主にツールとして使われるのは、囚人のジレンマの実験。本書で多用されているのは、500円を被験者に渡して二人一組で行うもので、「500円を相手に渡せば相手には1000円渡る(実験者が500円を足す)」=協力行動、「渡さなければ手元の500円のまま」=非協力行動、という状況のもと、「協力行動」と「非協力行動」の選択を被験者に迫るものとなっている。架空の設定ではなく、実際にお金の増減を伴わせるところが面白く、実験結果に真実味を与えている。

面白いのは、個々の被験者の行動が必ずしも目先の自己利益を最大化しようとするものであるとは限らないことである。もちろん「聖人」のような100%利他的行動を取る人はごくわずかなのであるが、多くの人が(状況にもよるが)「相手がそうするから、自分もそうする」という相対的な戦略を取る。つまり相手が協力的なら自分も協力的、相手が非協力的なら自分も非協力、という具合である。

もちろん、これらはあくまで「実験」であり、その結果がそのまま実社会に応用できるわけではない。しかし、そうであっても示唆されることが非常に多い本である。著者によれば、実験において見られたような行動は、進化の中で集団生活を営む人類にビルトインされた「本当のかしこさ」の表れであるという。とすれば、これを現下の環境問題やいじめ問題に応用するにはどうすればよいのか、ということになるが、もちろん本書はそのような「解決策」を軽々に示すことはしない。むしろ、人間がこうした「本当のかしこさ」を持っているにもかかわらず、環境問題やいじめ問題などがなぜ生じるのか、という点こそが、本当に解くべき難問なのかもしれない。