自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【227冊目】片山善博「市民社会と地方自治」

鳥取県知事の著者による地方自治論、なのだが、まあ読んでみて驚いた。このタイトルからは全然想像もつかないことに、なんと(序章・終章を除く)全9章のうち実に6章が、地方税に関する記述で占められているのである。それも「納税者が主役の地方自治」(第1章)、「税から見つめる地方自治」(第2章)あたりはまだ分かるが、「日韓地方資産税比較論」(第5章)、「法人事業税の再検討」(第6章)あたりになると、もはや「地方自治」というよりは「地方税」プロパーの論文を読んでいる気分である。

もちろん地方自治において税という視点が重要であることは当然である。むしろ、これまでの地方自治のテキストのほとんどで、地方税のテーマは不当なほど小さな扱いしかされてこなかったとすら言えよう。正直、本書を読んでいて、なるほど「税」という切り口から、現行の地方自治の問題点の多くが見事に切り出されてくるのだなあ、と何度も驚かされた。そのことを発見させてくれたことには感謝さえしている。

しかし、いくらなんでもこのタイトルで何の説明もなく全体の3分の2が地方税がらみの内容とは、いくらなんでもバランスが悪いのではないか。なんでこんなことになってしまったのだろうと、読みながら何度も首をひねってしまった。その意味ではちょっと残念な一冊ではあった。

もっとも、その点を除けば著者の主張はきわめて論旨明快で分かりやすく、するどい指摘に満ちている。特に議会の重要性に対する指摘は、単なる机上の理想論にとどまらない説得力がある。それは、著者自身が鳥取県知事時代に、議員相手の根回しをやめ、台本を読みあうような「学芸会」議会をやめて議会を丁々発止の議論の場に変え、議員立法を増やし執行部側と議会側との意見のぶつかり合いを歓迎するなど、画期的な議会改革を行ってきたという実績があるためであろう。著者の知事時代の功績については賛否両論あろうが、これだけの信念と行動力をもって行動されてきたことは、やはり並ではないと思わせられた。