自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【169冊目】天野巡一・石川 久・加藤 良重「自治体政策と訴訟法務」

判例解説自治体政策と訴訟法務

判例解説自治体政策と訴訟法務

自治体の立法政策や行政運営に大きな影響を与えた重要判例をテーマごとに網羅した本。それぞれの判例につき、事案の概要、判旨、解説の3パートからなっている。

摂津訴訟や徳島県公安条例事件、奈良県ため池訴訟など自治体職員なら誰でも知っている(はず)の有名判例から、保育所民営化訴訟、ホームレス住所認定訴訟などごく最近の判例・裁判例までがバランス良く取り上げられている。1審、2審、終審それぞれの判旨がコンパクトにまとめられているのもありがたいが、特に充実しているのが解説部分である。本書とよく似た構成の本としては判例百選があるが、百選の解説が多くは類似判例との比較や法理論的見解に重点を置いているのに対して、本書ではむしろその判例等がその後の自治体政策に及ぼした影響についての考察が多い。中には、結果として行政勝訴や和解に終わったケースでも、実質的に行政側の態度変更をもたらしているものも少なくない。訴訟の結果は単なる勝ち負けではないのであって、その審理のプロセスや判決における個別的な指摘が、自治体にとっては自らの事業運営に対する見直しの契機となっていることがよく分かる。

また、著者が強調しているのが、訴訟運営を弁護士任せにするのではなく、その中で自治体の政策の中での位置づけや意味合いについて裁判所に主張することのできる自治体職員を育成しなければならないという点である。それは、訴訟というプロセスが同時に自治体政策に対する一種の外部検証のチャンスとなっているからにほかならないように思われる。訴訟というと大方の自治体職員にとっては単なる面倒ごとであり、あるいは法務担当職員や弁護士にお任せすべき事案と考えがちであろうが、それでは訴訟というせっかくの機会を活かしきっていないといえるだろう。