自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【143冊目】塩田潮「首長」

首長

首長

全国の「改革派首長」たちを追いつつ、地方分権の「今」を捉えたルポルタージュである。

三重県の北川知事、宮城県の浅野知事、岩手県の増田知事、鳥取県の片山知事、高知県の橋本知事など、近年の「改革派」と称される知事たちの躍進はいちじるしいものがあった。また、市町村レベルでもニセコ町の逢坂町長、太田市清水市長、杉並区の山田区長など、その実力は知事に勝るとも劣らない。本書はその業績とともに改革の内幕を取り上げ、どのようにして彼らが「改革派」となりえたか、そのプロセスに密着している。

日本の地方自治体は、議会と長がそれぞれに選挙で選出される、いわゆる「大統領制」を採っているが、このシステムが行政の長である首長にどれほど絶大な権力を与えるものか、本書を読むとよく分かる。すぐれた見識と行動力をもつ首長が選出されれば、どんな自治体でも一夜にして変わる可能性を持っているのであり、逆に言えば、それだけの道具が用意されているにもかかわらずその自治体の行政が停滞し、凋落しているとすれば、それはトップの怠惰以外の何者でもないといえよう。

もちろん、だからといってむかしの国王のように何でもできるというわけではない。改革は必然的に既得権益をもつ団体の反発を招くのであり、議会や地元団体、そして嘆かわしいことに、役所の職員がほとんどの改革において「抵抗勢力」となってしまっているのである。本書に登場する首長の大半が就任当初に取り組んでいるのが、決まって職員の意識改革であることも非常に示唆的である。意識して抵抗しようとしているわけではないにせよ、おそらく(わが自治体も含め)どの役所でも職員の水準というのはひどいものらしい。カラ出張や裏金問題、さまざまなスキャンダルもあれば、サンダル履き、名札が見づらい、電話で名前を名乗らないなど、まったく初歩的以下のレベルのもののある。しかし反対に、こうした職員に意識改善を求め、「自分の名前で」仕事をさせるだけで業務水準が見違えるようになったという指摘も、また本書の中で何度となくなされている。職員サイドから言えば、トップにそんな手間と心労をかけている時点で職員失格であり、そんな指導をされること自体、恥ずかしく思わなければならないだろう。

ほかにも国との戦い、議会との戦いなど、一筋縄ではいかないハードルがいくつもある中で、三重や鳥取ニセコなどの先進自治体がどのように生まれてきたかを、本書はきわめてリアルかつ克明に描き出し、その中で地方自治体そのものに潜むさまざまな病巣の存在を明らかにしているといえる。