自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【142冊目】竹内佐和子「公共経営の制度設計」

公共経営の制度設計

公共経営の制度設計

近年、地方分権に向けてさまざまな動きがみられるが、その多くは国主導の「全国一律での」地方への権限委譲である。それに対して本書では、そもそも公共投資・公共経営モデルはそれぞれの地域ごとに最適化されるべきであり、重要なのは中央集権に対する地域分散型の経営モデルであるとする。なお、本書でいう「最適化」という言葉はさまざまな要素を含むが、「公共部門と民間部門の役割分担の程度(完全直営から完全民営化まで、さまざまな段階がある)や態様についての適切な水準」を示している。

本書は主に経済学、財政学、社会工学などの立場からこうした地域経営について論じ、地域起点の地方分権地方自治の重要性を主張している。面白いのは、それを単に理想論としてぶちあげるのではなく、こうした地域分散型の経営システムの具体的なサンプルとして、東京都水道局の経営改革モデルを提示し、実際にこれをビジネスモデルとして組み立ててみせていることだ。もちろんすべての事業が公共経営の対象となるわけではなく、その程度もさまざまだとは思うが、少なくとも水道事業というかなり大きな部門で赤字体質を脱却し経営として成り立たせるこれだけの可能性があるというのは興味深い。

現在の日本の制度について、中央(国)が民間や地方のリスクや負担をすべて吸い上げた上で、赤字国債などの形で後世に分散させているのが現状であると著者は指摘している。そして、このような状態から脱却し、日本の公共投資プロセスを(最低限のナショナル・、ミニマム部分は確保した上で)地方分散型に転換することが、地方へのリスク分散につながり、結果として日本という国全体の財政制度改革につながるという。一見、安易な民営化論かともみえるが、本書で論じられているのはむしろ全国一律の民営化ではなく、地域ごとにその適切なレベルを設定し、それぞれの地方、それぞれの事業ごとに適切な官・民の役割分担を定めたオーダーメイドの公共経営をするべきだということといえよう。地方を通じた国全体の制度改革を大胆に唱え、地域における公共政策のあり方を考える上で重要な位置を占める一冊である。