自治体職員の読書ノート

読むために書くのか、書くために読むのか。

【本以外】私家版「平成の30冊(+番外編10冊)」をセレクトしてみました

朝日新聞で「平成の30冊」が選ばれていたが、どうにも気に入らないので、自分なりに選びなおしてみた。基準は「今でも読める」「本として一定水準に達している」「それでいて時代を反映している」こと。あと全集、アンソロジー系は除外。本当は『ちくま文学の森』とか『池澤夏樹個人編集 世界文学全集』とか入れたいけど。あと海外作品は(一冊を除き)海外での刊行年でカウント。順番はランキングではなく刊行順。では、スタート!

 

1:ワンダフル・ライフ(1989年/平成元年)

 

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

ワンダフル・ライフ―バージェス頁岩と生物進化の物語 (ハヤカワ文庫NF)

 

 生物進化をめぐる議論を塗り替えた一冊。とにかく面白い。 

 

2:ナニワ金融道 (1990年/平成2年~1996年/平成8年)

ナニワ金融道 文庫 全10巻 完結セット (講談社漫画文庫)

ナニワ金融道 文庫 全10巻 完結セット (講談社漫画文庫)

 

 ゼニカネの話をここまでリアルに描いた漫画はなかった。「ウシジマくん」のルーツ。

 

3:ゾウの時間 ネズミの時間 (1992年/平成4年)

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

ゾウの時間 ネズミの時間―サイズの生物学 (中公新書)

 

 日本が生んだ生物学の名著だと思う。今読んでも十分通用する。

 

4:字通(1996年/平成8年)

字通 [普及版]

字通 [普及版]

 

歴史に残る偉業「字書三部作」のラスト。単著ですよ、単著。 

 

 

アンダーグラウンド (1997年/平成9年)

アンダーグラウンド (講談社文庫)

アンダーグラウンド (講談社文庫)

 

 平成を語るなら、オウムを忘れてはいけません。

 

6:わたしの名は紅(1998年/平成10年)

わたしの名は「紅」

わたしの名は「紅」

 

トルコの小説の面白さは、イスラムとヨーロッパが交錯しているところ。今こそ読まれるべき。

 

7:赤目四十八瀧心中未遂(1998年/平成10年)

赤目四十八瀧心中未遂

赤目四十八瀧心中未遂

 

案外、日本の文学史に残るんじゃないかと思う。私小説をよみがえらせた一冊。

 

8:バガボンド (1998年/平成10年~)

バガボンド コミック 1-37巻セット (モ-ニングKC)

バガボンド コミック 1-37巻セット (モ-ニングKC)

 
バガボンド(1)(モーニングKC)

バガボンド(1)(モーニングKC)

 

 たぶん日本で一番、連載再開が待たれているマンガ。私は『リアル』の続きのほうが気になるが。

 

9:過ぎし世の面影 (1998年/平成10年)

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

逝きし世の面影 (平凡社ライブラリー)

 

開国以前の日本の見方を一変させた名著。

 

10:日本語練習帳 (1999年/平成11年)

 

日本語練習帳 (岩波新書)

日本語練習帳 (岩波新書)

 

 もっと古い本かと思っていた。日本語を使う人すべての必携本。

 

11:エレガントな宇宙(1999年/平成11年)

エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する

エレガントな宇宙―超ひも理論がすべてを解明する

 

 宇宙論の最前線(といってももうだいぶ前だが)、超ひも理論の世界にようこそ。

 

12:銃・病原菌・鉄 (2000年/平成12年)

銃・病原菌・鉄 上下巻セット

銃・病原菌・鉄 上下巻セット

 

 これは朝日新聞の30冊にも入っていたかな。素晴らしい本です。

 

13:フェルマーの最終定理(2000年/平成12年)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

 

 フェルマーの最終定理が解かれたのは平成ですからね。

 

14:動物化するポストモダン (2001年/平成13年)

動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)

動物化するポストモダン オタクから見た日本社会 (講談社現代新書)

 

東浩紀を入れるなら『観光客の哲学』よりこっちかな、と。

 

15: カイエ・ソバージュ (2002年/平成14年~2004年/平成16年)

人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) (講談社選書メチエ)

人類最古の哲学 カイエ・ソバージュ(1) (講談社選書メチエ)

 

 中沢人類学の到達点。面白いですよ。

 

16:夕凪の街、桜の国 (2004年/平成16年)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

夕凪の街 桜の国 (アクションコミックス)

 

 『この世界の片隅に』と迷ったが。本当はどっちも入れたい。

 

17:わたしを離さないで (2005年/平成17年)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

わたしを離さないで (ハヤカワepi文庫)

 

 小説がここまで人の心を揺さぶれる、という極点。朝日のリストにもあった。

 

18:カラマーゾフの兄弟  光文社古典新訳文庫版(2006年/平成18年)

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

カラマーゾフの兄弟1 (光文社古典新訳文庫)

 

 これも朝日のリストと重複。唯一今回のリストで、オリジナルの刊行は平成以前(当たり前だ)。あえて入れたのは、やはり古典新訳の流れを作った一冊だから。 

 

19:ザ・ロード (2006年/平成18年)

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

ザ・ロード (ハヤカワepi文庫)

 

 21世紀を代表する小説のひとつになると思う。絶品。

 

20: 資本主義はなぜ自壊したのか(2008年/平成20年)

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言

資本主義はなぜ自壊したのか 「日本」再生への提言

 

 リーマンショックも平成。これは中にいた人の懺悔の書。

 

21:ハーモニー(2008年/平成20年)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

ハーモニー (ハヤカワ文庫JA)

 

 『虐殺器官』と迷ったが、日本発のディストピア小説の名作として、こちらを。

 

22:プラハの墓地(2010年/平成22年)

 ホントは『薔薇の名前』を入れたかったんだが。とにかくウンベルト・エーコは必須。

 

23:親鸞 (2010年/平成22年~2014年/平成26年

親鸞(上) (講談社文庫)

親鸞(上) (講談社文庫)

 

 五木寛之らしい親鸞像。悪人正機の考え方は、今こそ見直されるべき。

 

24:遺体 (2012年/平成24年

遺体: 震災、津波の果てに (新潮文庫)

遺体: 震災、津波の果てに (新潮文庫)

 

朝日新聞のリストで一番許せなかったのは、東日本大震災に関する本が一冊もなかったこと。とはいえ一冊ピンポイントで取り上げるのは難しいが、手に取りやすく突き刺さりやすいのはこの本か。

 

25:東京プリズン (2012年/平成24年

 

東京プリズン (河出文庫)

東京プリズン (河出文庫)

 

 平成が生んだ本格的戦争文学、国家文学、占領文学。

 

26:なぜ世界は存在しないのか (2013年/平成25年)

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

なぜ世界は存在しないのか (講談社選書メチエ)

 

 捉えづらい現代思想であえて一冊選ぶなら、これか。新実在論の旗手による代表作。

 

27:服従(2015年/平成27年

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

服従 (河出文庫 ウ 6-3)

 

イスラムとヨーロッパの相克をギリギリの臨界点で描いた一冊。

 

28:82年生まれ、キム・ジヨン(2016年/平成28年

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

82年生まれ、キム・ジヨン (単行本)

 

 韓国でベストセラーになり、日本でも評判の一冊。韓国文学は最近とても気になる。

 

 

29:おらおらでひとりいぐも (2017年/平成29年)

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

おらおらでひとりいぐも 第158回芥川賞受賞

 

 高齢社会ならではの文学が、突如出現した。老人文学というジャンルが生まれようとしているのかもしれない。

 

30:知の果てへの旅 (2017年/平成29年)

知の果てへの旅 (新潮クレスト・ブックス)

知の果てへの旅 (新潮クレスト・ブックス)

 

「既知」と「不知」の境界線を旅する一冊。平成の次の時代の科学研究は、この本を道標にして始まるのだ。

 

 

≪番外編≫

あえてお薦めはしないが、懐かしいもの、時代に影響を与えたものはコチラに。10冊くらいでいいかな。

 

1:ソフィーの世界(1991年/平成3年)

新装版 ソフィーの世界 (上) 哲学者からの不思議な手紙 ( )

新装版 ソフィーの世界 (上) 哲学者からの不思議な手紙 ( )

 

哲学を分かりやすく解説する本のルーツはここか。 内容的にはややビミョー。

 

 

2:リング(1991年/平成3年)

リング (角川ホラー文庫)

リング (角川ホラー文庫)

 

 日本のホラー小説ブームの先駆け。今読んでもよくできている。

 

 

3:ゴーマニズム宣言(1992年/平成4年~)

ゴーマニズム宣言 (1)

ゴーマニズム宣言 (1)

 

ここまで国民に広く影響を与えたマンガはなかった。一方今のネトウヨの培養地にもなっていたのだが。

 

 

4:完全自殺マニュアル(1993年/平成5年)

完全自殺マニュアル

完全自殺マニュアル

 

 自殺大国・日本で生まれた問題作。こういう本が出版できるこの社会ってどうなのか。

 

 

5:大往生(1994年/平成6年)

大往生 (岩波新書)

大往生 (岩波新書)

 

 今も続く「長生き本」のルーツ。みんな大往生を望んでいるらしい。

 

 

6:脳内革命(1995年/平成7年)
脳内革命―脳から出るホルモンが生き方を変える

脳内革命―脳から出るホルモンが生き方を変える

 

脳本ブームの火付け役。見たらやっぱりサンマーク出版

 

7:ハリー・ポッターシリーズ(1997年/平成9年~2007年/平成19年)
ハリー・ポッターと賢者の石 (1)

ハリー・ポッターと賢者の石 (1)

 

 私はあまり好きじゃなかったけど、あまり本を読まない子どもにまで読者層を広げた功績は大きい。

 

8:国民の歴史(1999年/平成11年)
国民の歴史

国民の歴史

 

最近の『日本国紀』にまで続くフェイク歴史本のルーツ。インテリコンプレックスのある人を囲い込み、「反自虐史観」的なインチキ歴史観で洗脳するネトウヨ増産装置。

 
9:バカの壁(2003年/平成5年)
バカの壁 (新潮新書)

バカの壁 (新潮新書)

 

 読んだ人の誰もが、自分だけは例外だと思っていたという奇妙な本。

 
 
10:これからの「正義」の話をしよう(2009年/平成21年)
これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

これからの「正義」の話をしよう (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

 

 ひところやたらとブームになった「サンデル本」。でも内容は意外にガチな哲学の解説だったりする。

【2318冊目】佐藤優・池上和子『格差社会を生き抜く読書』

 

格差社会を生き抜く読書 シリーズ ケアを考える (ちくま新書)
 

 

社会的擁護に関わってこられた池上和子氏はともかく、『国家の罠』の佐藤優氏が「ケアを考える」というシリーズの一冊に名を連ねるのはちょっと意外に思えたが、考えてみればこれまでも佐藤氏の論考には、現代社会における個人のアトム化や新自由主義の問題点への指摘がたびたびなされてきた。最近は河上肇『貧乏物語』の現代語訳も行っている(個人的には、現代語訳をしなければならないほど読みにくい本ではないと思うのだが・・・)。

単なる貧困や格差に関する対談ではなく、「読書」がベースライン、あるいは手すりになっているのがユニークだ。私も一時期、別ブログで福祉に関する本を集中的に取り上げていたことがあるが、この分野は実はフォローしようとすると意外に広く、かつ深いのだ。現行の制度論や解説だけでも介護保険、障害者福祉、生活保護、年金、医療保険などいろいろあり、しかもそこに、経済学や政治学社会学に心理学、さらにはコミュニティ論からソーシャルワーク論などがあり、さらに現代社会を描いた小説やマンガ、ルポルタージュなどが斜めに刺さってくる。

本書で取り上げられている本でいえば、第2章で大きく取り上げられているヘックマン『幼児教育の経済学』が気になった。ちなみにこの本は原題が「Giving Kids a Fair Chance(子どもに公平なチャンスを与えること)」となっており、邦題とはだいぶニュアンスが違う。「経済学」だとどうしても経済合理性の尺度で幼児教育を捉える、というふうに見えてしまう(実際、そうした観点で書かれているのが中室牧子『「学力」の経済学』で、本書ではこの本はボロクソに叩かれている)。いずれにせよこのヘックマンの本は相当面白そうだ。日本での受け入れられ方も含め、一度自分で読んで検証してみたい。

日本の社会保障制度史を概観した第4章では、岸信介を「日本が誇るべき国民皆保険制度を準備した」として評価しているのが興味深い。私も、戦後わずか16年で世界でも先進的な国民皆保険制度がなぜ導入できたのか不思議だったのだが、そこには岸首相の存在が大きかったようなのだ。むしろその後の池田隼人以降の自民政権は経済成長重視路線にシフトして、経済成長によって福祉政策を肩代わりさせた。その結果生まれたのが、宮本太郎氏のいうところの「低負担・中福祉」なる、世にも奇妙な福祉システムであったのだ。

貧困に対する都市部と地方の認識の違いも、今まであまり指摘されてこなかったのではないか。特に子どもの貧困について、都市部ではある程度認知されているので議論のテーブルに乗りやすいが、地方ではそもそも「子どもの貧困なんて存在しない」と言い出す人が多く、しかもそういう人が「地方の名士」になっていたりするので、そこを説得するのに骨が折れるという。

そう考えると、そういう人に選ばれて地方から出てきている政治家の集まりが自民党なのであって(一人当たりの票の格差がここに影響してくる)、その自民党が今は政権与党なのだから、貧困対策が進まないのは当たり前なのだ。願わくば、どこが与党であるにせよ、正確な定義と明確なエビデンスに基く貧困対策が一日も早く行われるようになってほしいものである。

  

 

現代語訳 貧乏物語 (講談社現代新書)
 

  

 

幼児教育の経済学

幼児教育の経済学

 

 

 

「学力」の経済学

「学力」の経済学

 

 

【2317冊目】柚月裕子『慈雨』

 

慈雨

慈雨

 

 

過去の罪を悔やみながら刑事を引退し、妻と四国八十八カ所巡りをする神場。道のりの中で思い出す、刑事人生のエピソードの数々。部下の刑事と付き合っている、娘の幸知への複雑な思い。そして、過去の罪にかかわる16年前の事件とよく似た事件が起きる・・・。

事件の捜査と巡礼の旅の二つを軸に、さまざまな物語が重なりあい、多くの思いが絡まり合って、それでも最後は、老夫婦の上に降る雨によって浄化される。慈雨、をタイトルにもってきた著者のセンスに脱帽。この人の本は初めて読んだが、いい小説だった。

おそらくベースになっているのは、冤罪事件で有名な足利事件だろう。だが、あちらではジャーナリストが告発した冤罪とその隠蔽を、ここでは元刑事と現場の刑事たち自らが解決しようとする。それでいいのか、という思いはぬぐえないが、そのことは著者ご自身が重々承知だろう。だからこそ、事件が解決した後もぬぐえない悔恨は、ただ雨に打たれるしかなかったのだ。

【2316冊目】山田風太郎『人間臨終図鑑』

 

 

 

 

 

 

これはとんでもない奇書である。文庫本で3冊、総計約1500ページ。そこにただひたすら、享年順に、人々の「死にざま」のみを綴る。取り上げられているのは政治家、哲学者、軍人、豪商、芸人、犯罪者等々、なんと総計923人。もっとも若く亡くなったのは「八百屋お七」の15歳(放火のため火あぶりの刑)、最年長は泉重千代前人未到121歳(ただし年齢については疑義アリとのこと)。

この本は枕元に置き、毎日寝る前に数ページを繰っていた。なんだかアブナイ人みたいだが、功成り名遂げた人たちの死にざまを読んでいると、不思議と心が落ち着いてくるのである。どんな生きざまを示そうが、生きているうちに何を為そうが、死は死であって、それ以上でもそれ以下でもないということが、肌身に沁みてくる。それに比べれば、日常の心配や仕事のストレスなど何ほどのものか。

大往生が必ずしも尊いわけではない。長生きすればよいというものでもない。死に際を綴った本書は、人間にとって「生」とは何か、というもう一つの難題を、逆光のように突き付ける。例えば、次のような著者のコメントをどう考えるか。

「死は大半の人にとって挫折である。しかし、奇妙なことに、それが挫折の死であればあるほどその人生は完全形をなして見える」(A)

ちなみに、クイズです。これ、誰についての文章の中に出てくると思いますか。ついでに以下もどうぞ。いずれも何かしら考えさせられるものを選んだ。

「このすべてを捨てたアウトサイダーは、後年の何もかも管理された時代に生きる人々の中にファンを生んだ」(B)

 

「彼は晩年、それまで勤めた大学や役所の俸給や年金や著書の印税で豊かな収入があり、平生何の趣味もなく質素な生活をしていたので、少なからぬ遺産があるとみられていたが、死後になってそれらの大部分をひそかに慈善事業に寄付していて、遺産はきわめて僅少なものであると判明した」(C)

 

「いつものようにXXXで仕事をし、昼食後館員と談笑していたが、ふと黙って、椅子の上で両手をくんだまま首を垂れているので、みなが驚いて駆け寄ると、すでに昏睡状態であった。そしてその状態のまま、五月三日午前四時二分に死んだ」(D)

 

「何にも申しませんが、ただ『コレデオシマイ』と申しました」(E)

 

「(遺言状を書くようしつこく促され)硯と紙を持って来い、といい遺言状を書いた。それには『処分は腕力に依るべし』と、あった」(F)

 

 

「『何もかもウンザリしちゃったよ』というのが最期の言葉であった」(G)

 

答えと、私のコメントは以下のとおり。死の際にどんなものが見えてくるか、なんとなく感じることができただろうか。

 

 

≪答え≫

A:織田信長(48歳)→挫折の死というのが、実は死の本来なのかもしれない。すべてやり尽くした人生なんて、人生の燃え殻ではないのか。

B:種田山頭火(58歳)→死後の評価とは何なのか、考えさせられた一文。

C:アダム・スミス(67歳)→あの『国富論』の著者にしてこうだった。現代の成金どもは爪の垢でも煎じて飲みなさい。

D:柳宗悦(72歳)→ある意味理想の死にざまだ。

E:勝海舟(76歳)→著者曰く「人間最後の言葉の中の最大傑作」

F:鳥羽僧正(87歳)→「鳥獣戯画」の作者としても知られる高僧の発言。なんともファンキーで楽しい坊さんだ。かくありたし。

G:チャーチル(91歳)→あのチャーチルにして、と思わせられた一言。

【2315冊目】新井紀子『AIvs教科書が読めない子どもたち』

 

AI vs. 教科書が読めない子どもたち
 

 

著者は断言する。AIは「神になる」ことも「人類を滅ぼす」こともなく、シンギュラリティなど到来しない。そもそもAI=人工知能というが、人間と同等レベルの知能にコンピュータが到達することは不可能だ。今言われているAIとは、厳密には「AIを実現するために開発された技術」にすぎない(本レビューでも同様に、AI技術を単に「AI」と呼ぶ)。そして、こうしたAI技術は、すべてコンピュータによるものだ。

では、コンピュータとは何か。一言でいえば「計算機」である。コンピュータの機能とは「四則演算」であって、すべて数学に基づくものだけ。そして、数学が説明できるのは「論理、確率、統計」の3つ。したがって、この3つに関する機能であれば、コンピュータは人間をはるかにしのぐことができるが、それ以外のことはまったくできないのだ。

だったら、AIなんてたいしたことはない? 否、と著者は言う。たしかにAIができることは限られている。だが、人間の能力がそれに満たないものであれば、AIが人間の仕事を奪うことは十分考えられる。そこで登場するのが、本書後半で示される「全国読解力調査」である。

これは要するに「教科書が読める」「新聞が読める」レベルの読解力があるかどうかを調べる調査である。実は本書でもっとも恐ろしいのは、AIの能力の高さではなく、日本の中高生の(おそらくは成人も含めて)読解力の低さである。

係り受け」「照応」「同義文判定」など、出題されるのは日本語の論理的な理解力を問うものばかり。その内容は本書を見ていただきたいが、教科書や新聞の文章をもとにしたもので、決して複雑なものではない。しかしその結果は衝撃的なものだった。なんと「中学生の半数は、中学校の教科書が読めていない状況」であり、「具体例同定(数学)」という分野では、「中学3年生の8割がサイコロ並みにしか答えられなかった」(つまりランダムな正答率並みだった)のだ。

だから著者は、アクティブ・ラーニングやプログラミング、英語の早期学習より、基本的な日本語読解能力の向上を優先すべきと主張する。「教科書も読めない」レベルの学生が社会人になって就ける仕事の大半はAIによって代替されてしまう可能性が高いからだ。このままいけば、AIができないタイプの労働は人手不足になる一方、失業者が世にあふれるという「雇用の二極化」が生じる危険性が高いのだ。

もっとも、AIによって代替されにくいとされている仕事の中には作業療法士ソーシャルワーカー、歯科矯正士なども含まれており、読解力とこれらの仕事に求められる能力にどの程度の相関関係があるのかは疑問である。これらの仕事では、むしろ身体的な感覚や感情面の共感能力などが求められるのではなかろうか。

とはいえ、思ったより多くの人が文章をまともに「読めない」ということ自体が衝撃的な一冊だった。もっとも、これは現代に限ったことではなく、実は昔からそうだったのかもしれない。もう一つ思ったのは、SNSや某掲示板のような場所が「荒れる」理由の一つに、まともに文章が読めず、文意が汲み取れない人に発信力が与えられてしまったことがあるのかもしれない、ということだ。ツイッターも結構だが、今後は一定の読解力がある人だけのSNSが必要なのかもしれない。登録の条件は、日本語読解能力検定で8割以上をクリアすること、なんてね。