自治体職員の読書ノート

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【2113冊目】織田作之助『夫婦善哉』

 

夫婦善哉 決定版 (新潮文庫)

夫婦善哉 決定版 (新潮文庫)

 

 
夫婦善哉」「続夫婦善哉」「木の都」「六白金星」「アド・バルーン」「世相」「競馬」の7編を収めた一冊。

何といっても有名なのは表題作の「夫婦善哉」。いろんな商売を始めるがなかなかものにならず、店のわずかな儲けを持ち出して遊郭で使ってしまうという、見事なまでの甲斐性無しの柳吉と(ミスター甲斐性無しの称号を進呈したい)、しっかり者の妻、蝶子の取り合わせは、典型的といえば悲しくなるほど典型的。

商売柄、こういう小説はどうしても福祉的な観点で見てしまうのだが、柳吉を厳しく折檻しつつも、結局はなんだかんだ言いながら受け入れてしまう蝶子自身が、かえって柳吉の自覚を妨げているように思えてならない。。心を鬼にして一度徹底的に突き放さないと、こういう男はダメなのだ。だがそこで鬼になりきれないのが、人としてのせつなさ、なのである。ああ、せつない。

この作品に限らず、本書全体を通して感じたのが、この「せつなさ」であった。それは不器用で懸命に生きているがゆえのものであり、人の本来的な弱さからくるものなのだと思う。そして、そういう弱い人たちを包むのに、この大阪という町はぴったりだと感じる。

大阪と言っても、吉本興業ばりの「作られた大阪」「演じられた大阪」ではない。むしろじんわりと温かく、庶民的で、誰でも懐広く受け入れてくれる大阪だ。だからこの人の小説は、読んでいるうちはいろいろ修羅場もあるのだが、それでもどこか安心できるものをもっているのである。