自治体職員の読書ノート

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【2004冊目】村田喜代子『ゆうじょこう』

 

ゆうじょこう (新潮文庫)

ゆうじょこう (新潮文庫)

 

 



舞台は熊本の遊郭、東雲楼。遊女たちのストライキという実際の事件がモデルになっている。

海女の子として生まれたイチという少女の視点で描かれている。「島猿」と呼ばれるほど純朴で野性味のあるイチも、遊郭の暮らしを通じて徐々に変わっていく。それはもちろん、遊女という「仕事」に慣れるという意味では、決してよいことばかりではないのだが、それ以上に、文字を習い、言葉を「書く」ことを通じて精神的に開花していくくだりがすばらしい。

大きな役割を果たすのが、遊女のための学校「女紅場」でイチたちを教える赤江鐵子という女性である。元士族で気位の高い鐵子は、イチたちに日記を書かせ、証文を読み、借金や掛売りの金を計算するよう教育を行う。そのことによって、イチたちは自分たちが置かれている境遇の理不尽に気付き、それがやがて前代未聞のストライキにつながっていくのである。

遊郭を描いた小説はいろいろあるが、どの作品にも、多かれ少なかれ陰惨さがつきまとう。親に売られて遊郭に身を置き、自ら身を売って日々を過ごす遊女たちを描いていれば、どうしても「明るい」作品にはなりにくい。

本書もまた、決して「明るい」小説ではない。遊女たちへの折檻や、親が遊郭と語らって勝手に借金を積み増しするようなひどい話もゴロゴロ出てくる。だが、それにもかかわらずこの物語にどこか風通しの良さを感じられるとすれば、その理由は、イチという少女のまっすぐな気性と、そこに共鳴するかのように、遊女たちがストライキに踏み出し、みごとに成功する痛快さにある。

最後に、本書にはイチの書いた「日記」がたくさん出てくる。方言まるだしの一見稚拙な文章なのだが、これが実に良いのである。率直で、てらいがなく、まっすぐに読み手の胸を打つ。よく名文の例として、野口英世の母シカが英世に送った手紙が挙げられるが、読んでいてアレを思い出した。