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自治体職員の読書ノート

仕事は福祉系。読書は雑食性。業務連絡はnsa59871atmarkexcite.co.jpへどうぞ。

【1260・1261冊目】『百年文庫15 庭』『百年文庫16 妖』

日常・生活・観察 謎・恐怖・幻想

(015)庭 (百年文庫)

(015)庭 (百年文庫)

(016)妖 (百年文庫)

(016)妖 (百年文庫)

白状すると、庭いじりにはまったく興味がない。だから、庭にこれほど執着する「白いウズラ」のメアリーには、ちょっと恐さを感じた。むしろ荒れ放題の庭をそのままに眺める「庭の眺め」の「私」のほうに共感。

梅崎春生「庭の眺め」(《崎》の「大」は「立」)
荒れ放題の庭を、そのままにして眺めるのも、また風情。そこにはカスミ網がかけられ、馬が通り過ぎる。隣人がそこに生えている無花果の樹を伐ってしまっても、それを淡々と眺める心のありようが、なんだか切ない。

スタインベック「白いウズラ」
梅崎の飄々淡々とは対照的に、こちらは「庭狂い」のメアリーとその夫が登場。メアリーの常軌を逸した庭への執着がコワイ。繊細的確な心理描写は、なんだか志賀直哉菊池寛の巧さを思わせる。

岡本かの子「金魚繚乱」(《繚》は手ヘン)
岡本太郎の母親としか認識していなかったが、これほどの名手であったとは。幼なじみへの恋や女性への執着が、美しい金魚を生みだそうという妄念に転化していく。金魚という存在、その美しさや絢爛にひそむ魔性の凄み。

さて、次の「妖」は、ああ、そういえば「妖」って字は「おんなへん」だったなあ、と再認識させられる3篇。表紙の「妖」の文字も、「女」が灰色っぽくなっていて、ちょっとあやしい雰囲気がただよう一冊。

坂口安吾「夜長姫と耳男」
安吾の「一作」に本作を選んだ眼力に敬服。「ヒメ」に抗おうと思いつつ吸い込まれていく「オレ」に同化して感じる、夜長姫の底知れぬ怖さ。果たしてこれは人か、魔か。

壇一雄「光る道」
安吾ほどの凄みはないが、無垢な姫君の幼さの奥底に「妖」を感じさせるところはさすが。姫をさらって主君の下から逃亡した衛士だが、いかに幼くとも、否、むしろ幼いゆえの女の妖艶。

谷崎潤一郎「秘密」
女装に目覚めた男が、かつて深い仲となった女性と出会う。「焼けぼっくいに火がついた」ような女性との関わりを描く後半も良いが、むしろ女装して街を歩く男の心理描写のほうに、谷崎の本領を感じる。