自治体職員の読書ノート

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【1184冊目】ノヴァーリス『青い花』

青い花 (岩波文庫)

青い花 (岩波文庫)

小説というより散文詩に近い。あるいはいっそ、大人向けの童話というべきか。以前、松岡正剛氏が絶賛していたのをどこかで(千夜千冊だったか、古本屋で見つけた雑誌「遊」だったか……)知って以来、読みたくて仕方なかった。読む前からドキドキしていた。

主人公のハインリヒが、夢の中で青い花に出会い、その花弁のなかに美しい少女の顔を見る。その後、旅に出ることになったハインリヒは、その終着地で、夢に見た少女とうりふたつの女性マティルデに出会い、熱烈な恋のすえ結ばれる。

第1部の筋書きとしてはだいたいこんな感じで、たいへんシンプル。しかし、その中にさまざまな逸話や物語が挿入された入れ子構造になっている。ちなみに未完の第2部は、マティルデを失い巡礼となったハインリヒとジルヴェスター医師の対話が中心となっているのだが、こちらはさらに、筋書きといえるような筋書きはほとんどない。

むしろ見るべきは、紡がれている言葉のひとつひとつ、表現のひとつひとつ。読んでいて驚いたのが、すべての(ホントにすべての)言葉が、魔法の輝きをもち、青色の鉱物的オーラを放っていること。これほどまでに、すべての言葉が彫琢され、イメージに満ち、俗世と隔絶しているような文章は、めったにない(宮澤賢治の詩や童話に、同じような輝きをよく感じるが)。

読んでいると、どこが夢でどこが現実か、どこが物語でどこが地の文か、よく分からなくなってくる。そして、そのまま物語は未完で終わる。でも、この物語には未完がふさわしいような気がする。なんだか、ちょっとホッとした。

とにかく、読むと呆然、慄然、陶然となる稀有の一冊。ドイツ・ロマン派の精華と呼ぶにふさわしい。ということは、本書は同時にアンチ近代主義、アンチ合理主義の一冊でもある。むしろこの本は、自然との合一、魔術的で神秘主義的な世界観の側に立つ。その中にかすかにほのみえる、アジアへの目線、素朴なオリエンタリズムの気配が絶妙。

こう言っては何だが、ネットやブログでは絶対にお目にかかれない類の文章だ。私自身は今まで読みそびれてしまっていたが、本当は、若い頃にこそこういう本を読むべきなのだろう。ある本を読んだかどうかが、その人の人生を左右する決定的な要素となるような本が、この世には何冊かあるのだが、本書はその中の一冊だと思う。本書を未読の方は、いますぐPCを閉じて本書を買い求め、そのめくるめく魔法の青い光に、ご自身の感性を浸しきってほしい。それでも、何も感じられなかったら……? ちょっと、ヤバイかもね。