自治体職員の読書ノート

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【1005冊目】手嶋龍一『スギハラ・ダラー』

スギハラ・ダラー

スギハラ・ダラー

ネットラジオに「ラジオ版 学問のススメ」という番組がある。いろんなゲストを呼んでお話を聞くというもので、一見カタそうに見えるが、聞いてみるとけっこうやわらかく、面白い。本書の著者である手嶋龍一氏も、この番組に以前登場されており、その放送を聞いてぜひ読んでみたくなったのがこの本。もっとも、なかなか手に取る暇がないまま、放送からはずいぶん時間が経ってしまったが・・・・・・。

さて、本書を分類すれば「インテリジェンス小説」というジャンル(というべきか)になるらしい。その定義は、佐藤優氏が本書の書評で書かれている言葉を借りると「公開情報や秘密情報を精査、分析して、近未来に起こるであろう出来事を描く小説」。したがってその「読みどころ」は、小説の筋書きや登場人物の魅力ではなく、そこに盛り込まれた情報や予測そのものである、ということになる。

なんでこんなことをごちゃごちゃと書いているかというと、正直なところ、普通の小説としてこの本を読んでいたら、たぶん私は途中で投げ出していたと思うからだ。文章もぎこちないし、筋書きも読み取りにくい。何が解かれるべき「謎」で、そこに向かって誰がどう動いているのか、さっぱり見えてこない。しかしこれは、普通の「小説」として読むほうが間違っているのである。本書は、小説の体裁を取りつつ、現在の世界そのものに関する情報と分析と予測を虚実ないまぜにして明らかにしたものであり、佐藤氏の解説にあるとおり、まさに本書はドキュメンタリー・フィクションでもなく、ノンフィクション・ノベルでもない、その狭間にあるがゆえにスリリングな一冊なのだ。

著者はNHKワシントン支局長を長く務め、日米関係や世界情勢を見つめ続けてきた方。2001年9月11日の同時多発テロでは現地から11日間にわたり中継放送を流したことでも知られる。そんな著者がなぜ小説(インテリジェンス小説)という表現手段に身をゆだねたのか、その事情はよく知らないが、おそらくこのような形でしか書き得ない「真実」というものがある、ということなのだと思う。それほどまでに、著者はいろんなことを知りすぎ、インテリジェンス・オフィサーの世界の当事者になりすぎてしまったのかもしれない。

それにしても、インテリジェンスの世界はめっぽう面白い。佐藤優氏の著作を何冊か読む中で、その魅力をうすうす感じてはいたが、本書はまたちょっと別の視点から「世界を読み解く」面白さというものを教えてくれる。そして、こうした「インテリジェンス」に強いのがポーランドイスラエル、あるいはユダヤ人ネットワークといった、どちらかというと「小国」であるところも興味深い。主人公ブラッドレーの祖国イギリスも、小国とは言い難いが、伝統的に諜報能力を重視してきたお国柄だ。日本が「小国」といえるかどうかは微妙なところかもしれないが、日本は日本なりの、独自のインテリジェンス能力を磨いてきたと言えるだろうか? 

ということで、この「インテリジェンス」関係の本、これからも少し継続して読んでいこうと思う。その考え方やノウハウから、世界のありようとその捉え方までつなげていきたい。一冊一冊を鎖のようにつないで読む「鎖読」の一冊。