自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【641冊目】大石嘉一郎・室井力・宮本憲一『日本における地方自治の探究』【642冊目】宮本憲一『日本の地方自治 その歴史と未来』

日本における地方自治の探究

日本における地方自治の探究

日本の地方自治 その歴史と未来 (現代自治選書)

日本の地方自治 その歴史と未来 (現代自治選書)

地方自治論の中でも、比較的リベラルな立場から書かれた論考2冊。

特に『歴史と未来』は、明治以降の歴史を丹念に辿りつつ、地方自治の視点から日本近代史を俯瞰した一冊。著者の立ち位置がとても明確で、その分、立場や主義が相容れないと読むのに抵抗を感じるかも知れない(特に「保守主義」に対する無条件の否定的姿勢は、読んでいてさすがにちょっと違和感を感じた)が、それさえ気にならなければ、地方自治を近代史的視点から捉えるには最適の一冊である。

特に大正デモクラシーの期間、地方自治においても非常に先進的な思想や行動がみられたことは特筆に値する。また、その頃に育まれた地方自治の思想が、戦後の地方制度改革に萌芽したという見方にはうなずかされるものがある。確かに、いくらGHQがトップダウンで指令を下しても、まったく何の下地もない状態から現在のような地方制度が実現するとは考えにくい。ただし、一方では大正期の勢いが大恐慌、戦争という歴史の流れに呑まれて消えてしまったことが、現在の中途半端な自治・分権に対する意識につながっているともいえる。

ちなみに、このあたりの事情はおそらく民主主義や自由主義についてもあてはまるように思われる。本書でも指摘されているが、大正デモクラシーという時代が果たした歴史的役割というものについて、もっと評価されてよいように思われる。

また、「草の根民主主義」という言い方はよく地方自治論で見られるが、「草の根保守主義」という表現がみられる。保守主義観に対する違和感を差し引いても、この表現、日本の地方政治の状況をひとことで言い表すものとして絶妙。逆に言えば、日本社会の「草の根」にまでいきわたった保守的なイズムがコミュニティの崩壊や住民の「個人化」とともに崩れつつあることが、今の自民党の衰退につながっているのかもしれない。

『探究』のほうは3人が自治労連のシンポジウムで行った講演を文章化したもので、スタンスとしてはやはりバリバリのリベラル系なのだが、こちらもコンパクトながらなかなか面白い。大石氏は『歴史と未来』をさらに濃縮した地方自治史、室井氏は憲法との関係で地方自治を論じ、宮本氏は将来に向けた地方自治の在り方を論じており、「歴史・現在・未来」という軸がしっかりと見えている。

中でも室井氏の論ずる、国民主権地方自治の関連が面白かった。氏によれば、民主主義というのは人民が権力を握る「人民主権」つまり国民主権と、それに対する警戒感やニヒリズムを内包する「自由主義」とが妥協してできているものであって、それゆえに、一方で国民主権と言いながら、もう一方でその権力を弱めるような地方自治地方分権を主張するのだという。国民主権と言っても、完全に国民が権力を握るわけではないのである。そうした「理念的には矛盾が同時に併存しているというのが、われわれの考えている国民主権下の地方自治である」と、室井氏は語っているのだ。