自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【148冊目】松岡正剛「花鳥風月の科学」

花鳥風月の科学 (中公文庫)

花鳥風月の科学 (中公文庫)

本書は「山」「神」「風」「花」などの10章に分かれており、それぞれのテーマごとに、科学の面、文化の面、歴史の面など、いろいろな方向から光を当てる内容となっている。各章は単に独立しているわけではなく、それぞれが相互に関連し、複雑に絡み合いながら、全体として「花鳥風月」的なるもの、いいかえれば日本人の心象の底にたゆたっている「風物」「イメージ」(本書の言い方では「景気」)のありようを描き出している。

全体を通して、とにかく並じゃないのは、そのために著者が当てる光の多様性と多方向性、それを総合的に編み上げることで圧倒的な広がりと深みを演出する、その手際の驚くべき鮮やかさである。その「光」の幅は、最新の科学的知見(もっとも、本書が刊行された時点の、であるが)からその文化的来歴(世界中の文化史が縦横に語られている)に至り、さらには折々の日本人がそれをどう感じ、受け止めてきたかを、ふんだんに織り交ぜた短歌や俳句等によって探っている。まさに著者でなくてはなしえない、底知れぬ知識と知性に裏打ちされた高度の編集芸術である。

本書で示されているのは、日本人の自然観、文化観、宗教観であり、さらに言うならば「情緒の思想」「感性の思想」ともいうべき独自の思想の系譜である。さらに、日本独自とされているさまざまな文化が世界とどうつながっているか、特に中国やインド、ペルシアから受けた影響の大きさがいかに大きいか。その背後にはまた、世界中をめぐる文化のネットワークがあり、交流の歴史がある。また、日本神話の豊穣さ、仏教のもつ複雑さと雄大さなど、宗教文化とでもいうべき分野の広さと深さについても目を見開かされる思いがした。さらに「ワビ」「サビ」のもつ、触れれば壊れそうな精妙さはどうか。なんと微妙で繊細なものを、われわれはその文化のうちにはぐくみ、表現してきたことか。そして、その中でなんと大胆な変化を遂げてきたことか。

とにかく発見と驚きの連続の一冊であり、日本文化のイメージというか「空気」のような微妙で複雑なものを浮かび上がらせた本である。面白い。