自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【114冊目】文化政策提言ネットワーク編「指定管理者制度で何が変わるのか」

指定管理者制度で何が変わるのか (文化とまちづくり叢書)

指定管理者制度で何が変わるのか (文化とまちづくり叢書)

指定管理者制度について、学者、行政、第3セクター、企業、NPO等の関係者が、それぞれの視点からそのあり方や問題点について書いたものを集成した本。制度施行前に書かれたものらしく、主として導入された場合の見通しについて書かれている。

公務員をやっていると、どうしても行政側の視点でものごとを見てしまいがちになる。指定管理者制度についても、行政側のコスト計算や施設の質の維持には関心があっても、指定を受けた企業やNPO側にとっての視点、すなわち「公の施設」の管理運営がビジネスとしてペイするものなのか(少なくとも赤字経営にならないか)、あるいは指定管理者制度に伴う指定管理者側のリスクに関する考え方は、分かっていても二の次になりがちである。そのあたりを、本書は実際に企業担当者や類似の実績をもつNPOの視点から具体的に書いてくれている。特に、文化施設における指定管理者制度の導入が必ずしもビジネスとして成り立たないこと、その背景には収益事業のみに特化できないという文化事業の特性、計画と執行を分離する発想(指定管理者は行政側の立てた計画の範囲内でしか事業を展開できない)、行政側のコスト計算の方法などの問題があるという指摘にはうなずけるものがあった(このヤマハの担当者による論稿は、企業側からみた指定管理者論としてとても面白かった)。

また、そもそも指定管理者制度の前提となる「公共性」とは何か、という部分も、日々の業務に直結する問題でありながら、なかなか正面きって考えることのない難しいテーマである。そのあたりも、いわゆる公共哲学や公共経済学等の視点から学者による概説があり、行政にとっての「原理」の部分から指定管理者制度を見ることができる。

いろいろな立場の著者によって書かれているだけに、内容のレベルにはかなりばらつきがあるが、それでも通して読んでみると、行政側の視点だけではなく、さまざまな視点から指定管理者制度の「核」のようなものが立体的に見えてくる一冊である。