自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2808冊目】アミール・D・アクゼル『「無限」に魅入られた天才数学者たち』


無限という言葉を聞いて、どんなイメージが浮かぶだろうか。


例えば「数」。123・・・と、数字はいくら数えても終わりがない(最も大きな数字を考えても、それに1を足すことができる)。また、無限は、案外身近なところにもある。例えば、01の間を半分に分割すると0.5だが、さらにその半分(0.25)、またさらにその半分・・・と分割を繰り返すと、何回割っても終わりがない。これもまた無限である。


無限について考えていくと、奇妙な結論にたびたび出くわす。例えば19世紀の数学者ボルツァーノの方法を見てみよう。関数y=2xに着目し、0から1までの間のすべての数に作用させる。例えばx=0.5だと、y=1。最大なのはx=1の時のy=2だ。そうすると、0から1までのすべての数xと、0から2までのどれかの数y11で対応することになる。となると、よろしいか、「0から1までの間にある数」と「0から2までの間にある数」の個数は等しいということになるのである。


かつて無限は神のものだった。ユダヤ神秘主義カバラでは、言葉によって説明できない大いなる存在を「エン・ソフ」と呼んだが、これは「無限なるもの」という意味で、すなわち神のことであった。中世キリスト教の聖職者クサヌス(クザーヌス)は神の知を円、人間の知を円に内接する多角形になぞらえた(クサヌスは数学者でもあった)。人間の知が増大すれば多角形の辺の数が増え、限りなく無限=円に近づくが、それでも決して円そのものにはなりえない。つまり無限とは人間の手の届かない、神そのものであったのだ。


その無限に正面から立ち向かい、それによって数学そのものを大きく進歩させたのが、19世紀の数学者カントールであった。特に集合論におけるカントールの影響はたいへん大きい(らしい)。カントールは本書のいわば「主人公」であり、その生涯やライバルたちとの確執、さらには精神を病み、入院生活を送りながら数学の研究をするまでが克明に描かれている。


正直、数学はチンプンカンプンでも、このカントールの一生を読むだけでも本書はたいへん面白い。ちなみに同じく面白いのがその後に登場するゲーデルの生涯なのだが、二人ともが無限に取り組み、後に心を病んでしまうというのは、なんだか考えさせられることではある。無限とは、やはり人間が手を出してはならない「神の領域」に属することがらなのかもしれない。


最後までお読みいただき,ありがとうございました!


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