hachiroetoのものぐさ遊読帖

自治体職員。仕事は福祉系。読書は雑食系。

【2762冊目】江國香織『号泣する準備はできていた』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン84冊目。


「前進、もしくは前進のように思われるもの」「じゃこじゃこのビスケット」「熱帯夜」「煙草配りガール」「溝」「こまつま」「洋一も来られればよかったのにね」「住宅地」「どこでもない場所」「手」「号泣する準備はできていた」「そこなう」の12篇が収録されています。


今更ですが、江國香織はタイトル名人ですね。上に挙げたタイトルも、それぞれに見事で、内容が気になります。


その内容もまた、素晴らしい。大きな事件が起きるわけではありません。夫の実家に行ったり、デパートで買い物をしたり、夫の母と旅行に行ったり、バーに行った後に牛丼を食べたり、姪をヴァイオリン教室に連れていったりしているだけなのですが、見事なのは、そこで起きている出来事というより、心の中に去来する思いです。


相手が浮気しているのではと疑ったり、昔の恋人のことを思い出したり、所在のなさを感じたり、といった、わずかな心のさざなみを、丁寧に、センシティブに描く。その細やかな手つきの中に、時にギョッとするような心の叫びが織り込まれます。その多くは「悲しみ」です。


しかし、本書に登場する女性たちは、悲しみに打ちひしがれているわけではありません。むしろ、そんな気持ちを感じながらも、あくまで背筋はピンと伸びています。泣くことはあっても、そこから立ち直り、ふたたび歩き出す力強さがあるのです。どの作品も、直木賞受賞も納得の名品です。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!