自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2753冊目】恩田陸『夜のピクニック』


新潮文庫1002021」全冊読破キャンペーン75冊目。


実は、恩田陸の小説はちょっと苦手。なので、本書もなんとなく敬遠していたのですが、読んでみたら予想外の素晴らしさにびっくり! 読むうちに夢中になってしまいました。


全校生徒が丸一日、80キロを歩き通す「歩行祭」。本書は全編が、そのイベントの中で展開されています。ひたすら歩き、語るだけなのに、そこで起こるすべてがなんとみずみずしく、懐かしく、そして輝いていることか。そして、400ページ以上にわたって歩きつづけるだけなのに、次々に場面や話題が切り替わり、一瞬たりとも飽きさせず、むしろ終わり近くになると寂しささえ感じてしまいます。


中心に描かれている西脇融と甲田貴子は、大きな秘密と屈託を共有し、お互いに複雑な感情を抱いています。それがこの歩行祭を通じて、徐々に気持ちが変化し、大きく成長を遂げるところが、本書の最大の魅力となっています。人が大きく変わるためのチャンスを、この歩行祭はもたらしているのです。


ある意味、この「歩行祭」は、現代の日本ではほとんど失われてしまった、大人になるためのイニシエーション、通過儀礼としての機能をもっているように思います。そう考えると、夜から朝にかけての時間もまた、死と再生のメタファーにもなっているともいえるでしょう。高校生たちは無謀とも思える過酷な「歩行」を通じて、一度死に、大人として生まれ変わるのです。


最後までお読みいただき、ありがとうございました!