【2671冊目】鬼海弘雄『世間のひと』
東京・浅草、浅草寺。著者は、1973年から40年にわたり、そこに行き交う人を撮り続けた。
撮られているのは、ほとんどが無名の人ばかり。言うなれば、私が普段すれ違っている人、電車で乗り合わせた人と、ほとんど変わらないはずなのだ。なのになぜ、どの写真も強烈で、個性的で、目が離せないのだろう。
そこにあるのは「顔」というより「面構え」というべきか。それまでの生き様から、自分との向き合い方までが、その一枚に滲み出る。もちろんそれは、そのように撮っているからなのだけれど、それにしても写真とはおそろしいものだと思う。
浅草という土地柄か、ちょっと変わった風体の人も多くておもしろい。メッシュのシャツに4つの腕時計をぶら下げた男、ファスナー全開で明らかに丈の長すぎる上着をひっかけた仕立て屋、木刀を腰に差して日の丸の鉢巻をした学ランの中学生。同じ人を10年越し、15年越しに撮っているものもある。
著者はこれを「王たちの肖像」と呼ぶ。なるほど、その一人で屹立する姿、強烈な存在感は、まさに王と呼ぶにふさわしい。というか、そもそもわたしたちは、職人でもホームレスでも会社員でも女学生でも専業主婦でも、誰もが自分自身の王なのだ。この膨大な肖像写真は、その明らかな証拠なのである。
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