自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2648冊目】ペスタロッチ『隠者の夕暮/シュタンツだより』


ペスタロッチ(本書では「ペスタロッチー」)をご存知でしょうか。18世紀から19世紀にかけて、孤児院を作り、民衆教育に生涯を捧げた人物です。フレーベルやコルチャックにも影響を与えた、教育史上の巨人といってもいいでしょう。


本書には、そのペスタロッチが自らの教育の信条をまとめた「隠者の夕暮」と、孤児院での日々を綴った「シュタンツだより」の2篇が収められています。


「隠者の夕暮」は、いかにもペスタロッチが引退してから書いたようなタイトルですが、実はこれが34歳の時の第一著作なのですね。しかし、自然に逆らわない全人格的な教育法は、今読んでも斬新です。


「シュタンツだより」も、後半は教育論が中心で、やはりペスタロッチのすぐれたバランス感覚を感じます。機械的な知識の詰め込みではなく、身近な経験と関連づけての理解や、実践を踏まえた教育法は、今読んでも学ぶものが多いように思いました。


「世の博識の人間は他の人々以上にかつまたもっと手ぎわよく彼の自己ないし自己自身との統一に導かれ、自己の知識と自己の境遇との調和に導かれ、また彼のすべての精神力の均衡のとれた発達に導かれる必要がある。さもないと彼の知識は彼自身のうちで虚偽の光となり、彼の心の奥底を錯乱させ、そして単純な、率直な、自己自身に一致した精神が、最も未開な最も粗野な人間にすら与える本質的な生活の悦楽を明らかに彼から奪ってしまう」(p.89)


そして、ペスタロッチの目標は、あくまで子どもたちの人間としての成長に置かれていました。知識の習得などは、そのための手段にすぎなかったのです。その知識を活かして人を助けるような人間になることが、ペスタロッチにとっての教育だったのですね。


「貧しい者に助言し、悩む者の困窮と悲惨を救うこと以上に偉大な美しいことを何かお前は知っているか。しかしお前は何も理解しなくてそれができるか。お前は心意気は大へんよいが、無学のために万事成行きに任せておくより外はないではないか。しかしお前は多くのことを知っておれば知っておるだけ多くのことを他人のために助言することができ、また多くのことを理解しておるだけ多くの人を貧困から救うことができる」(p.85)


こんな教育を行なっている先生や親が、現代の日本にどれくらいいるでしょうか。私たちは一度、ペスタロッチに立ち戻る必要があるのかもしれません。


最後まで読んでいただき、ありがとうございました!