【2623冊目】ロレンス・ダレル『黒い本』
いや〜、この本はしんどい。でも、ハマる。
ストーリーらしきものはほとんど無い。南ロンドンのレジナ・ホテルでの堕落した日々がひたすらに綴られ、そこにグレゴリーという人物の日記が唐突に挟み込まれる。そして、あとはひたすら、言葉、言葉、言葉・・・。
だから、筋書きを追って読もうとしても、到底太刀打ちできない。暴れ回り、踊り狂うような言葉の奔流に、ただ身を任せるしかない。これはとてつもない、反文学、反モラル、反物語、反近代の、異様極まりない一冊なのである。
まあ、そんなことを言われてもよくわからないと思うので、試みに少しだけ引用してみよう。まあ、どこのページを開いても同じような感じなので、たまたまめくったところを・・・
「ああ! だがここにはただ、窓ガラスにまつわりついた黄色い澱みと、きたない海と、冷たい骨のふれ合いにおののく肉体があるばかり。だが、ふとぼくは知るのだ。ぼくたちはあの死との類似をこの季節と分かち、それらのことを書き始めるときぼくの上に重くのしかかる、他のすべての季節とも分かち合っていることを。骨にからみついた繊維のかたまり、どんなミイラも、どんな塩の柱も、どんな解剖用死体もー今日のぼくたちの半分も死んではいないのだ」(p.8)
「明日ともなれば、大地はぬれそぼり、疲れ切り、この水のオルガスムからふたたび生まれるだろうー柄元まで、草むらの根までぬれそぼり、湿って、冬眠へと引きこもり、直根となってねじ曲がり眠りこけ、埋められ罪のあがないを求めるペニス。刺し子の掛布団と、ゴムの、松脂の、ジギタリスの、たんぽぽの頭の、小麦の粘膜に内張りされた、陰門の活気づいた壁」(p.198)
「ぼくはおまえの身体の上におおいかぶさる、すると全宇宙がぼくのために静かに展けてくる、意外な花園にひらかれた扉のように」(p.333)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!