自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2549冊目】中村智志『大いなる看取り』

 

 

東京・山谷のドヤ街にある「きぼうのいえ」は、行き場のない人々を看取るための施設である。

 

マザー・テレサの「死を待つ人の家」の日本版を作ろうと、山本雅基、美恵の二人が立ち上げた。そこにやってくる人々は実にさまざま。拳銃を500丁密輸したという元ヤクザもいれば、自分も夫と子がいるのに、妻子ある男と駆け落ちした女性もいる。年齢的に戦争体験者も多い。シベリア抑留を経験した人、元731部隊という人。本書の半分はそうした人々の半生の語りで占められている。六車由美の『驚きの介護民俗学』という本があるが、彼女はむしろここを取材すべきであったかもしれない。「きぼうのいえ」は、まさに昭和という時代のコアでディープな語り部たちが勢揃いしている施設なのだから。

 

彼らを支え、共に暮らす「きぼうのいえ」のスタッフたちがすばらしい。それぞれが個性豊かで海千山千、一筋縄ではいかない利用者の、しかも死を目前とした状況を、温かく、真摯に、しかし決して深刻になりすぎることなく受け入れていく。興味深いのは、スタッフはすべての利用者と平等に接しないようにしている、ということ。むしろ、人には相性というものがあるのだから、相性の合う利用者と積極的に親密な関係を作っていく。ふつうの「施設」ではありえない発想かもしれない。しかし、こうして作られた心の深い結びつきが、死を目前にした「きぼうのいえ」での生活に、落ち着きと彩りを添えてくれるのである。

 

死を迎えるための施設であるがゆえに、ここは他のどこよりも「生きる場所」たりえている。なぜこんな「場」が可能なのだろうか。何よりも、山谷という、日本の問題や病理を凝縮したような場所にこのような施設が生まれたことの意味を、私たちは真剣に考えなければならないように思われる。

 

 

驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)

驚きの介護民俗学 (シリーズ ケアをひらく)

  • 作者:六車 由実
  • 発売日: 2012/02/27
  • メディア: 単行本