【2544冊目】道尾秀介『向日葵の咲かない夏』
後から考えるとけっこう陰惨で救いのない話なのだが、その割に読後感は妙にさわやかだ。だがそのさわやかさは、どこか病んでいる。それがかえって、じんわりと怖い。ちなみに主人公のファーストネームであるミチオは著者の名字、なぜか唯一イニシャルで呼ばれ続けるS君のSは著者の名前Shusukeか。
叙述トリックはよくできている。冒頭の教室のシーンで机に何か描いているミチオが「ああ、トカゲか」と言われて激昂するところなど、読み返してはじめてその意味に気付いた。まあ、だから何なのかと言われればそれ以上の奥行きが特にあるわけではないのだが、そもそもそういう小説なのだから仕方がない。これはトリックアートのように「読んで騙される」ことを愉しむ本なのだし、それで十分なのである。