【2541冊目】宮下奈都『羊と鋼の森』
映画化もされたベストセラーなので、内容はご存知の方が多いだろう。見習い調律師の成長を描いた作品なのだが、さほど抵抗なくするする読める。主人公の外村が、いろいろ悩みや葛藤を抱えているのはわかるのだが、静かでおとなしい性格であるためか、内側で動くモノがあまり表出されないまま物語が流れていく。それが本書全体を流れる独特の「静かさ」になっている。その抵抗性の低さというか、葛藤のハードルの低さが現代に受け入れられ、外村くんを応援したくなる要因なのかもしれないが、一方でどこか物足りなさを感じてしまう。
ピアノという人工物を扱っている割に、自然になぞらえた音楽描写が多いのがおもしろい。個人的には、ピアノという楽器は他の楽器に比べても人工的でメカニカルなイメージが強いので、最初のうちは、読んでいてあまりしっくりこなかったのだが、考えてみれば、ヴァイオリニストにとっての左手にあたる、音程を調節しているのが調律師なのであって、それはつまり、調律師がピアノに自然の息吹を与えているということなのかもしれない。