自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2540冊目】塩野七生『神の代理人』

神の代理人 (新潮文庫)

神の代理人 (新潮文庫)




「神の代理人」とは、カトリックの最高位、ローマ教皇のことである。ルネサンス期のローマ教皇のうち4人を描いた本書は、質量ともに単行本4冊分。後年の塩野七生なら内容をもっと膨らませて「ルネサンスローマ教皇シリーズ全4巻」くらいに仕立て上げたかもしれない。


中でも読み応えがあるのは、第2章と第3章。第2章では教皇アレッサンドロ6世と、フィレンツェで独自の神政を敷いたカリスマ的修道士サヴォナローラの対立が描かれる。記録や書簡の引用のみというスタイルが、かえって生々しくスリリングだ。どちらかというと、熱心なキリスト教サヴォナローラを、教皇が権力にまかせて弾圧しているように見える書きぶりだが、ラスト(ここだけは著者の地の文になっている)で一転、アレッサンドロ6世が異教徒に寛容で、政教分離を考えた教皇であったことが明かされ、自ら信じる道を説くカリスマ的なサヴォナローラこそが、実は狂信的で危険な存在であったことが分かる。歴史の真実は見方次第で大きく変わることが実感できる一章だ。


第3章は、教皇を主人公にしているとは思えないほどのすさまじい戦乱絵巻が描かれる。教皇ジュリオ2世とフランス王の確執を中心に、ドイツやスペインなどの強国や、イタリア内部で勢力をもっていたボローニャヴェネツィアなどが入り乱れての争いだ。ここでは教皇もまた独自の軍隊を持った一国の王であり、政治家であったことがわかる。


ちなみにここで招き入れたスペインが後にローマを破壊・略奪し、ルターの宗教革命とともにカトリックの時代に終止符を打つのであるが、それは後の話。当時は気鋭の歴史作家であった塩野七生の、知識と情熱がたっぷりと注ぎ込まれた一冊だ。