【2520冊目】カート・ヴォネガット『国のない男』
以前読んだ『スラップスティック』より、私にはこちらの本のほうがすんなり入ってきた。御年82歳のヴォネガットによるエッセイ集。遺作である。
とはいえ、本書には枯れたところ、年齢相応のおとなしさなどカケラもない。痛烈なアメリカ批判。冴えわたるブラックユーモア。軽妙でシュールな独特のセンス。なるほど、これは面白い。特に若者が病みつきになるのも分かる気がする。
「われわれが大切に守るべき合衆国憲法には、ひとつ、悲しむべき構造的欠陥があるらしい。どうすればその欠陥を直せるのか、わたしにはわからない。欠陥とはつまり、頭のイカレた人間しか大統領(プレジデント)になろうとしないということだ。これはハイスクールにもあてはまる。クラス委員(プレジデント)に立候補するのは、どう見ても頭のおかしい連中ばかりだ」(p.127)
ええと、これはジョージ・ブッシュが大統領だった時に書かれたものだが、今はさらにグレードアップした(何が?)大統領がおりますな。まあ、わが国の首相も、あまり人のことを言えたものではないが。
イラクの脅威を主張し、われわれはただ待つしかないのか(いや、こちらから先制攻撃をしかけるべきだ)とする意見への返事。
「では、われわれすべてのために、ショットガンを買って―できれば12口径の二連式がいい―隣の家に飛びこんで、その家の人たち(警官を除く)の頭を吹き飛ばしてください。みんな、武装しているかもしれませんから」(p.137)
これだけでも、ヴォネガット一流のアイロニーとブラックユーモア、強烈な風刺と批判の片鱗は感じられるのではないか。この「コロナの時代」にヴォネガットが生きていたら、どんなふうにこれを眺めただろう。読みながら、そんなことをふと考えてしまった。