自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2515冊目】藤沢晃治『「分かりやすい表現」の技術』

 

 

最初に一言。この本、今年1月に新装版が出ている。しかも単行本である。新書が単行本として「新装」されるのはちょっとめずらしいが、それほどに本書が「良書」であることを物語っている。ちなみに私が読んだのは、1999年刊行のブルーバックス版。

 

まず本書のタイトルに注目を。「分かりやすい表現」にカギカッコがついている。なぜだろうか? 『分かりやすい表現の技術』だと、「分かりやすい『表現の技術』」だと思われる可能性があるからだ・・・たぶん。本書第4章「『分かりやすい表現』のルール・ブック」でいえば、ルール6「複数解釈を許すな」に該当する。著者は自らの本のタイトルでこれを実践していることになる。

 

世の中には「分かりにくい」表現があふれている。看板、ポスター、マニュアル・・・。かく言う私の所属する役所など、恥ずかしながら「分かりにくい表現」のオンパレードである。最近では、特別定額給付金の「支給不要のチェック欄」が分かりにくいとメディアやネットで指摘を受けたが、役所にはこの手のものがとにかく多い。

 

わざわざ「分かりにくく」しようと思って、看板やマニュアルを作っている人はいないはずだ。なのに、なぜこれほどまでに、分かりにくい表現だらけなのだろうか? 本書はそのことを考えるにあたって、そもそも「『分かる』とはどういうことか」というところまでさかのぼって解説している。それが本書の第2章なのだが、この説明がまず、ものすごく分かりやすくてよくできている。ここでは結論の2か条だけを引用するが、これだけでも見事な洞察だ(p.41)。

 

 ①「分かりやすい」とは「分かっている」状態に移行しやすいという意味である。
 ②「分かっている」状態とは「情報が脳内整理棚の一区画にしまわれている」状態である。

 

 

本書の真骨頂は第3章だ。ここでは、世間で見かけるありとあらゆる「分かりにくい」ものをピックアップし、著者みずからがそれを「分かりやすく」手直ししている。そのビフォー・アフターは実に鮮やかなもの。分かりにくくごちゃごちゃした説明文やら看板やらが、ちょっとした強調、省略、順番の入れ替えなどでガラリと変わるのだ。具体例を挙げたいところだが、レイアウトやフォントの工夫など、テキストベースで紹介しづらい部分ばかりなので、ぜひ本書にあたってほしい。

 

参考になった考え方も多い。例えばフールプルーフという言葉。これは「あまり注意深くない人々の存在を織り込んで、その対策が講じられている製品」(p.61)とのこと。まあ、フール(fool)とは直訳すれば「バカ」という意味だから、「バカでも分かる〇〇」と言ってしまえば良さそうだが、さすがにお客様や住民の皆様をバカとは言いづらい。

 

役所の文書が分かりにくくなる一つの原因が、この「フールプルーフ」を勘違いしているためではないかと私は思っている。「どんな人でも理解できるように」と、やたらに言葉を足したり、要らずもがなの注意書きを入れているうちに、気付くと説明がごちゃごちゃして分かりにくくなってしまうのだ。だが、これは方向性としては正反対。必要なのは、専門用語を使わないこと、余計な情報をそぎ落としてシンプルに伝えること。さらに言えば「相手の立場に立って考える」ことなのだ。実際、部署のベテランが作った資料より、異動して2年目くらいの職員の資料の方が理解しやすい、ということがよく起きるが、要するにそういうこと。

 

「情報のサイズ制限を守れ」という指摘も重要だ(p.105)。ここではビール瓶のたとえが分かりやすい。そもそも人間には、一次記憶域(いわゆる短期記憶)と二次記憶域(いわゆる長期記憶)がある。一次記憶域はビール瓶の狭い口のようなもので、ここを通らないくらい大きいものは、ビール瓶の中(二次記憶域)までたどり着かず、記憶されない。したがって、単位あたりの情報量は小さくする必要がある。長い文が分かりにくい理由の一つがこれである。公文では「記書き」と言って、「記」の下に箇条書きで項目を立てて内容を書く手法があるが、これも情報のサイズを小さくして理解しやすくする、という狙いがあるのかもしれない。

 

ここに挙げたのは本書に登場する「ルール」のごく一部にすぎない。他にも「まず全体地図を与える」「情報を共通項でくくる」「具体的な情報を示す」「自然発想に逆らわない」などの、いずれも超重要な「分かりやすい表現の基本」が、実例つきで紹介されている(自然発想とは、例えば「入門編は応用編より先」とか「赤色の蛇口と青色の蛇口があったら、赤色からはお湯、青色からは水が出る」といった、多くの人が自然にもっている発想のこと)。どんな人にも一読をおススメしたいが、特に自治体職員にとっては必読テキスト。できれば新人職員と管理職全員を対象として、本書をテキストに研修を行うべきである。

 

 

新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール

新装版「分かりやすい表現」の技術 意図を正しく伝えるための16のルール

  • 作者:藤沢晃治
  • 発売日: 2020/01/16
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)