自治体職員の読書ノート

自治体職員です。仕事の関係上、福祉系が多めです。読書は全方位がモットー。

【2498冊目】ハンス・ロスリング、オーラ・ロスリング、アンナ・ロスリング・ロンランド『FACTFULNESS』

 

 

今や「フェイクニュース」なんて言葉が登場し、何が事実で何がフェイクなのか、すっかりわからなくなってしまった。だが、そこまで「わかりやすい」インチキ情報は、むしろ少ない。それより深刻な問題は、私たちが接する情報自体が正しくても、受け手の私たち自身がきちんと事実を把握し、正しく世界のありようを理解できていないという点なのだ。著者によればその原因は、私たち人間自身がもっている10の「本能」なのだという。

「分断本能」は、「富裕層」「貧困層」、「先進国」「途上国」といった二極に世界が分断されていると認識する。だが実際には、1日の所得が2ドル以下の貧困層と、1日の所得が32ドル以上の豊かな人々は、それぞれ世界全体で10億人ずつ。一方、その中間をなす層はなんと50億人にのぼるという。

「ネガティブ本能」は「世界はどんどん悪くなっている」と思い込む。「直線本能」は変化の予測を「直線のグラフ」で想定し、「恐怖本能」は、恐ろしいものばかりに目が行ってしまい、「過大視本能」はひとつの数値だけを過大視してとらえてしまう。

他にも「パターン化本能」「宿命本能」「単純化本能」「犯人捜し本能」「焦り本能」が本書では挙げられているが、いずれにせよ必要なのは、私たち自身がそうした「本能」を持っていると自覚することだ。そして、あたかもワクチンを打つように、そうした「本能」に囚われないための方法論を身につけることである。

例えば「中国やインドなどの新興国二酸化炭素の排出量を増やしている」という指摘に対しては「ひとりあたりの排出量はどうか」と考えることができるだろうし、「男尊女卑はアジアの伝統」という見方に対しても「60年前の欧米もそうだった。単なる古い価値観にすぎない」と反論できるだろう。飛行機事故を怖がる向きに対しては、次の統計を示してはどうか。

「2016年に目的地に到着した飛行機は、世界中で約4000万機。そのうち死亡事故を起こしたのは10機。飛行機って、そんなに危険ですか?」

ファクトフルネスとはこういうことだ。過度の悲観も、過度の不安も禁物だが、過度の楽観もまた行き過ぎとなる。大事なのはまさに「正しく怖がる」ことなのである。本書はそのための処方箋を示し、世界の見え方を変えようとする一冊なのだ。新型ウイルスをめぐって情報や認識が混乱している今こそ、しっかり向き合いたい。