自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2495冊目】吉田洋一『零の発見』

 

零の発見―数学の生い立ち (岩波新書)

零の発見―数学の生い立ち (岩波新書)

  • 作者:吉田 洋一
  • 発売日: 1986/11/01
  • メディア: 新書
 

 

数学エッセイの元祖のような一冊だ。われわれが数学や算数で当たり前と思っていること、例えば数字の書き方(記数法)などのルールが、実は決して「当たり前」ではないことを、数学史を辿りつつ解き明かしていく。その筆致は実にスリリング。その中で無限小数や「連続」をめぐる議論が展開され、数学のもっとも基本的で、同時にもっともあやうい「キワ」のようなところを一挙に通過する。

おもしろかったのは、数学の父であって数秘術の大家であったピュタゴラスの話。数学の世界の調和と美をこの世の真理であって法則と考えたピュタゴラスは、辺の長さが1の正方形の対角線の長さが2の平方根という通約不可能な無理数であったことに対し、これを教団の外部に漏らすことを禁じたというのだ。「アロゴンの存在は造化の妙に欠陥があることを意味する。したがって、かかる造化の手落ちはかたく秘めておかなければならぬ」(p.131)。そして、掟を破った最初の者は、神罰を受けて難破、溺死したという。数の神秘、おそろしき哉。