自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2487冊目】吉村昭『高熱隧道』

 

高熱隧道 (新潮文庫)

高熱隧道 (新潮文庫)

  • 作者:吉村 昭
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 1975/07/29
  • メディア: 文庫
 

 

隧道とはトンネルのこと。トンネル工事、舞台は黒部、といっても「黒部の太陽」とは時代が違う。昭和11年から15年にかけて行われた黒部第三発電所工事である。

読みながら、最初は頭の中に「地上の星」が流れていたが、途中から、どうやらそんななまぬるい話ではないことに気付かされた。なんといっても、掘削するトンネル内の温度は最初でも60度以上、それが掘り進めば進むほど高くなり、最後はなんと166度に達するのだ。

爆破用のダイナマイトは、自然発火で爆発する。宿舎は雪崩で吹き飛ばされる。高熱で身体中火ぶくれが出来、身体を冷やすための水は足元に溜まって熱い湯に変わる。まさに地獄絵図というにふさわしいこの無茶な工事は、しかし国策の一環として決して中止されず、人夫たちが次々と犠牲になっていく。多くの犠牲を出した太平洋戦争とまったく同じ構図が、ここにある。これはプロジェクトXどころじゃない、国内で展開された「もうひとつの戦争」なのだ。