自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2472冊目】山田風太郎『あと千回の晩飯』

 

あと千回の晩飯 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

あと千回の晩飯 山田風太郎ベストコレクション (角川文庫)

 

 

 

人を食った、という表現がぴったりのエッセイ集。残りの人生で食べられる晩飯はあと千回くらいか、というところから始まり、老境を迎えた心境を綴る。

なんて書くと、淡々とした随筆を想像するかもしれないが、そこは山田風太郎、老いてはいても枯れてはいない。むしろ老人ならではの言いたい放題、書きたい放題なのだが、言いたいことを言っていても威張っておらず、嫌味がないところに人間としての成熟を感じる。自分を絶対視して若者や世相をディスるのではなく、年老いた自分自身を客観視し、ユーモラスに描写しているのだ。さすがはガチの戦中派、中身カラッポでプライドばかり高い「あの世代」のジジババとは人間の出来が違う。

言いたい放題ということで言えば、初っ端に出てくる「老人の大氾濫予防法」がものすごい。なにしろ認知症になった高齢者(著者の言い方をそのまま使えば「ボケ老人」)を一堂に集め、ガスを満たして永遠の眠りについてもらう、というのである。アウシュヴィッツや『ロスト・ケア』と違うのは、これが「志願制」であるところ。65歳になった時に「将来ボケてクソジジイ、クソババアの徴候があらわれたら、この国家的葬送の儀に参加させてくれという登録をしておく」のだそうだ。

さすがの山田風太郎も、この提案は非難轟々かと覚悟していたらしい。ところが送られたきたのは、賛成を表明する手紙ばかり。それも65歳を過ぎた女性が多かったという。今ならどうだろうか。認知症になってまで生きるくらいなら・・・とひそかに思っている人は、男女問わず結構多いのではないだろうか。このあたりは『ロスト・ケア』を読んだ後だけに、いろいろと考えさせられるものがあった。