【2457冊目】ジェームズ・M・ケイン『郵便配達は二度ベルを鳴らす』
映画はずっと前に見たような気がするが、あまりよく覚えていない。初めて原作を読んで驚いた。ものすごく面白い。
浮気した人妻とその相手が、邪魔になった夫を殺すという、まあよくある話、どうしようもない話だし、主人公のフランクはろくでなしの風来坊、人妻のコーラは肉感的だが美人というわけでもなく性格もはすっぱで考えも浅い。
そういう、一歩間違えれば平凡な駄作になりそうな要素しか見当たらない小説なのに、これが実に惹きつけられるのだ。特に、完全犯罪を実行した後の二転三転のドラマは、次に何が起きるかまったく予想がつかず本が置けなくなる。そして、ラスト近くのフランクとコーラの会話は、なんともせつなく、悲しくなる。この二人には、本当にあんな犯罪を犯すしか、生きる道はなかったのだろうか。