自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2450冊目】春日武彦『家族の違和感 親子の違和感』

 

家族の違和感・親子の違和感―精神科医が読み解く「幸・不幸」

家族の違和感・親子の違和感―精神科医が読み解く「幸・不幸」

  • 作者:春日 武彦
  • 出版社/メーカー: 金子書房
  • 発売日: 2010/03/01
  • メディア: 単行本
 

 

臨床の現場を通じてさまざまな家族に出会ってきた著者による、家族論、親子論。家族というものがもつ本質的な厄介さ、困難さについて、多様な角度から明らかにしている。

例えば、親の期待というものについて。著者によれば、期待とは本来「成果を要求することではなく、相手を認め尊重すること」(p.87)であるはずだ。だが実際には、無自覚のうちに、期待という形で親が子をコントロールしようとすることも多い。子どもが小さいうちはそれでも「親の期待に応えようと」勉強や習い事をがんばるだろう。だが、思春期になり親のコントロール下から抜け出そうとする子どもは、結果として「親の期待を裏切る」ことになる。

それ自体は多くの人が通過する当たり前のプロセスだが、時に親の期待を裏切ったことがトラウマになり、行動の歪みにつながるケースがある。「期待を裏切ったわたし」としての自己認識から勝手にすね、ひがみ、精神が自壊する。期待を裏切って見捨てられる怖さからひたすら従属的に人と接する。あるいは「期待とは無縁の存在」になろうとして非行に走るのである。

親子の問題という点では「引きこもり」について触れることは避けられない。読んでいて唸ったのは「引きこもるから孤独になるのではなく、孤独感に責めさいなまれているからこそ引きこもる」という指摘。著者によれば、「自分は無価値で意味がないといった否定感情や無力感」から発する深い孤独感に囚われた人は、人と群れるよりむしろ一人になることを選ぶという。逆説的にも見えるが、物理的に独りぼっちになることは、そうした人にとっては気休めになるというのである。

では、そのようにして引きこもった子どもに対して、家族に何ができるのか。著者の処方箋は、誰もが孤独を感じながら日々を過ごしていることを認識することであり、具体的には「家族それぞれが引きこもり青年への特別視を止め、生き生きとした『自然体の』生活を送っている姿を示す」(p.126)ことだという。自分の行動に家族が巻き添えになっていない、自分が置き去りにされていないと感じることで、「惨めではない孤独」があることを知り、自己否定の解消に至る。ただ、そのためには数年以上という長い時間を要することもある。引きこもりへの対応とは持久戦なのである。

家族は、確かにさまざまな病理や問題を抱えていることが多く、家族が原因で病んでしまう人も少なくない。だが一方で、その人の回復をもたらし、救いとなることが多いのも、また家族なのである。まったく、家族とはなんと不思議な存在であることか。