【2447冊目】西川美和『映画にまつわるxについて』
映画監督・西川美和のエッセイ集。前半、xにはそれぞれのエッセイごとに「ヒーロー」「裸」「オーディション」などの言葉が入る。後半はそれ以外の種々雑多なエッセイ集。
実はこの人、私と同い年。だからなのか、時代感覚というか、社会への感覚の向け方のようなものがどこか似ていて、不思議な親近感があった。映画のほうはどうだったか、残念ながらいまひとつ覚えていないのだが、同じような感覚があったかもしれない。
本書、映画の現場のエピソードや日常のちょっとした出来事が綴られているだけなのだが、時折、この人ならではの「見方」のようなものがキラリと光る。印象に残ったのは「x=バリアフリー」での次の言葉。 「映画は言葉を尽くした散文よりも、行間から様々に想像を巡らす詩や俳句に似ていると、私は思う。楽しむ上で最も大切なのは、視力、聴力よりもむしろ、鋭敏な注意力と、豊富な想像力だ」(p.49)
ちなみにこれは、いわゆる「バリアフリー映画」における聴覚障害者向けの字幕のあり方についてのコメント。このエッセイは、過剰な説明への警鐘になっているだけでなく、見えない人、聴こえない人に対して映画をどう「伝える」かという、コミュニケーションそのものの本質にはからずも迫っている。