自治体職員の読書ノート

自治体で働くソーシャルワーカーが、読んだ本を紹介します。

【2430冊目】赤坂真理『箱の中の天皇』

 

箱の中の天皇

箱の中の天皇

 

 

前著『東京プリズン』で東京裁判と真正面から切り結んだ赤坂真理が、今度は「天皇」をメインテーマに据えた。しかも今度は、「マリ」は現代を生きながら、1946年の日本においてどうやらスパイをしているらしい「メアリ」によって、終戦直後の日本にやってくる。一方、現代日本においては、退位にまつわる天皇自身のメッセージがテレビに流れている。「マリ」は、1946年にあってはマッカーサーと議論を繰り広げ、現代にあっては天皇自身と言葉を交わす……。

日本国憲法第1条は、「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基づく」とある。だが「象徴」とはいったい何なのか? 国民とは何であって、日本国民などというものはそもそも存在するのだろうか? そして日本国民に「主権」などというものがあるのだろうか。だいたい、なぜこの「天皇は象徴である」という奇妙な一文が、よりにもよって日本国憲法の冒頭に置かれているのか。考えたことはありますか。

もっとも重要に思われ、しかし誰もがまともに考えてこなかったこの「日本国憲法第1条」こそが、戦後日本のパンドラの箱であったことに、本書を読むと気付かされる。憲法の草稿を書いた若きアメリカ人に向かって、マリは叫ぶ。

「シンボルがあるためには、それが象徴する「内容」がなければなりません! 内容が書いてないのに、何を象徴すればいいんですか? 無体だ! それは無に無を重ねることです!」(p.112-113)

あるいは、国民という言葉はどうか。ここではマッカーサー今上天皇に語る(時代的にはありえない)痛烈なセリフが突き刺さる。戦後の日本というものを悪魔的なまでに的確にえぐるセリフである。

「しかしあなたの民を見よ。六十年以上、実質上、一党独裁で、それになんの不満もなかった民だ。それはもとをたどれば、アメリカの、独裁なのだ。世界史上最もうまくいった独裁だ。あなたがたはそのシンボルであった。一政党の独裁によって民は経済の甘い汁を吸えるなら、それでよかった。その甘い汁すら、アメリカから来た。国民はそれをよろこんだ」(p.126)

この言い分は当たっているだろうか。日本には国民は存在するのか。天皇とはいったい日本国民にとって何なのか。これは、われわれ一人ひとりが真正面からぶつかり、考え抜かなければならない難問だ。終戦から現代に至るまで、ずっと日本人ののど元にひっかかっているトゲなのだ。即位を祝うのもいいだろう。憲法改正を議論するのもいいだろう。だが、それ以前に必要な問いがある。象徴天皇の定めを第1条におく憲法とは何なのか、そんな憲法のもとに70年以上にわたって存続している日本という国はいったい何なのか。

 

東京プリズン (河出文庫)

東京プリズン (河出文庫)