【2363冊目】宮本輝『優駿』
北海道の小さな牧場で生まれた名馬オラシオンを中心に、多くの人間が繰り広げるドラマ。圧倒的な広がりをみせつつも、物語はあくまでオラシオンを離れることはない。オラシオンの存在感が、愚かで、懸命で、欲得と愛憎にまみれた人間の姿を浄化しているようにさえ見えてくる。
圧巻の小説。人間ではない存在を中心におくことで、かえって人間の姿が瞭然と見えてくるのが面白い。それにしても、なぜ人間はあれほどまでに、馬に魅せられるのか。競馬がどこかほかのギャンブルと異質なのは、その根底に、馬という存在への畏敬があるからなのかもしれない。
「馬はなァ、夢や」「馬主もそうやし、馬券を買うやつもそうや。二百円なら二百円の、千円なら千円の、夢を買うんや。捨ててもええ金で買う夢や。それを忘れるなよ」(上巻p.79-80)
「馬は、心で走る」(下巻p.246)