【2342冊目】池波正太郎『男の作法』
インスタグラムからの転載。
読んだのは、ずいぶん前。その時は、ひたすらうざったかった。久々に読み直して気づいたこと。これ、タダの「オヤジの説教」じゃない。
例えば冒頭の、鮨屋の話。アガリとかシャリとか言うな、「お茶ください」でいい。カウンターは常連客が座るかもしれないから、最初は隅っこかテーブル席に座れ。トロは原価が高いんだから、トロばっかり頼むな。まあ、こんな具合である。
以前はこれがうっとおしかった。一方的な決めつけにしか思えなかった。だが今読めば、その裏側にある含蓄に気付く。それは「カネさえ払えばなんでもやっていいってもんじゃない」ということ。相手の立場、お店の立場も考える。どうしてもトロをもうひとつ食べたいなら「もう一つ食べたいけど、いいかね」と聞く。この一言が大事なんだ。
相手を重んじる。相手を立てる。それは妻(夫)であっても同じこと。例えば妻の母が亡くなったとする。「香典はどうしましょう」と言われたら「いくらがいいと思う?」と聞いて、言われた金額に対して「いや、それじゃお前の母親だから少ない。その倍にしなさい」と言えばいい。それで相手も自分が重んじられていると思う。
この呼吸、この配慮。口調は時代を感じるが、大人であるとはこういうことなのだ。ホンモノの男にも女にも必要な、大人の作法の数々。味のある生き方ってえのは、こういうところから始まるのかもしれない。