自治体職員の読書ノート

自治体で働く活字中毒者が、読んだ本を紹介します。普段の読書の紹介はインスタで。

【2311冊目】久保寺健彦『ハロワ!』

 

 

ハロワ! (集英社文庫)

ハロワ! (集英社文庫)

 

 

嘱託員としてハローワークで働く若者が主人公の連作短編。

正直、小説としてどうかと問われれば、今一つの部分も多い。文章も粗いし、説得力に欠ける部分もあるし、筋書きも散漫だ。登場人物のキャラクターはなかなか面白いのだが(特に千堂と樋口)、そこに面白いエピソードを絡めてキャラを立たせることができていないので、せっかくの造形が埋もれてしまっている。

ついでに言えば、同じ相談業務を担当する公務員としての立場で言えば、「あるある」な部分もあるが、??な部分も。まあ、地方公務員と国家公務員、福祉事務所と職業紹介という違いはあるのだろうが。

いずれにせよ、ハローワークという、小説のネタがゴロゴロ転がっている場所を選んだにしては、材料が手に余るというか、全体的に生煮えの印象が残った。だが、それにもかかわらずこの小説は、読ませる。ところどころ首をひねりながらも、勢いで最後まで読ませる熱量と勢いをもっている。

なぜなのか、著者のことは全然知らないのでここから先は推測になるのだが、たぶんこの沢田信という主人公の抱えている課題や切実さが、著者自身の抱えているそれと重なっているからではないかと思う。多くの人と同時に話をするのが苦手な一方、音楽が好きで夜通しクラブで過ごす二面性、「正しい生き方」にこだわった窮屈な生き方、それが昂じて、思いを寄せている人妻と自分の部屋で過ごしながらそれ以上の関係になりきれないムズキュンな設定など、ウソっぽいと感じる人もいるだろうが、むしろこの「小説としてのウソっぽさ」に、私はリアリティを感じた。まあ、ムズキュンに関しては「逃げ恥」の例もあることだし、現代ではこっちのほうがかえってリアルなのかもしれないが。

もちろん、よほど自分の中にダークサイドをもっていないと、この手を何度も使うことはできない。今後、この著者がどんなふうに成長し、小説としての練度を上げていけるか、それとも本書かぎりの一発屋で終わってしまうか、どうやら最近新作も出たようなので、楽しみにしたいと思う。最初から「うまい」ヤツより、「ヘタだけどなぜか読ませる」ヤツのほうが、大化けする可能性は高いのだから。