【2308冊目】桐野夏生『路上のX』
恵まれた家庭に育ったが、高校進学直前に両親が突然いなくなった真由。幼少期から再婚を繰り返す母親と暮らし、義父からレイプされたリオナ。渋谷の街をさまよう少女たちのリアルを描いた小説だ。
たぶんこういう現実を、知らない人は本当に知らないんだろうなあ、と読んでいて思った。JKビジネスみたいな、マスコミに面白おかしく取り上げられるネタの裏側にどんな暗部が広がっていることか。それを知るためには、一人一人の少女に寄り添い、その半生を知らなければならないのだが、それができないからこそ、勝手気ままな言説が世を流れる。
その意味では、一つのリアルの断面を切り取ったであろうこういう小説が刊行されることには価値がある。それになんといっても、少女の目線から徹底的に断罪される、大人の身勝手さと偽善性の醜悪さよ。少女をモノとしてしか見ない男たちが最低であることは言うまでもないが、警察や児童相談所の職員までもが、分かったような顔をして規制の制度に押し込むだけの存在として描かれている。もっともこのあたりは、少女たちの描写が複雑で奥行きがあるのに比べると、いささか浅薄でステレオタイプな描写にとどまっている。
そのあたりのバランスとも関係するのかもしれないが、本書のラスト、リオナや真由が選んだ道が気になった。確かに、小説としては見事に完結してはいるが、本当にそれしかなかったのだろうか。しょせんは現実ってそんなもの、なのだろうか。