【2217冊目】西加奈子『ふくわらい』
「言葉を使うのが怖いときってあるよ」
「その言葉がすべてになっちまうんだから」
以前読んだ同じ著者の『さくら』はあまりピンとこなかったが、この本はとてもよかった。充実度が際立っている。
主人公の「鳴木戸定」がおもしろい。最近のマンガでちょくちょく見る、空気が読めず人の感情がわからない発達障害系キャラなのだが、雨乞いのやり方を知っていたり人の顔のパーツを動かして「ふくわらい」をしたりと、妙な特技というか特徴がいっぱいあって、それがなんとも魅力的なのだ。
だが、変わらないように見える定も、さまざまな出会いを経て少しずつ変わっていく。実はナイーヴなプロレスラー作家の守口。目が見えないが定に「一目惚れ」してしまう武智。定の同僚でめちゃくちゃ美人の小暮。定のようにマイペースで人に影響されないように見える人でも、やはり人とのかかわりの中で何かが変わる。そのことに、心の深いところで勇気づけられる。