【2184冊目】佐藤究『QJKJQ』
「家族全員が猟奇殺人者」という設定で「うげっ」と思った人こそ、一読をおススメしたい。
いかにもな設定を次々と裏切り続けるプロットは、ネタバレなしの解説不能。適切な評をひとつ選ぶなら、やはり有栖川有栖の選評にある「平成のドグラ・マグラ」だろうか。同じく選評において辻村深月が「この作品を新しいとは思わない」と書いているのも、まったくそのとおり。
この著者が採用している「仕掛け」は、ある意味古典的ではあるものの、だからこそかえって「うまく使う」ことが難しい。せめてSFだったら設定次第で何とでもなるところだが、著者はそれを現代を舞台にしたミステリーという、もっとも難度の高い状況の中で鮮やかに使いこなしてみせた。いや、それだけではない。その上でこの作品をひとつの「小説」としてきっちり仕上げ、驚きどころかある種の感動さえ呼び起こすものにしてしまったのである。
ここ数年の江戸川乱歩賞の中でも、収穫となる一作だろう。だが、気になるのはこんな作品をいきなり出してしまって、この後をどうするのか、ということ。それでなくても、巻末の「乱歩賞受賞リスト」を見ればわかるように、賞を取ったもののその後は鳴かず飛ばず、という作家も少なくないのである。心配だ。