【2167冊目】伊藤比呂美『女の一生』
娘であること。セックス。恋愛。仕事。結婚。出産。育児。不倫。夫。姑。更年期。閉経。介護。老い。死。
女(女性、と書きたくなるが、いちおう本書に揃える)による、女のための人生相談。酸いも甘いもかみ分けたベテランの「女」による、時に親身、時にバッサリの回答が面白い。
女の一生とは大変なものだと、改めて思う。だが、それはそれでなんだか楽しそう、とも思えてくる。苦労した者同士だけが語れる、しんみりとした会話を、ちょっとだけ盗み聞きした気分。
「性教育とは、「あたしはあたし」という考え方とコンドームを、武器として持たせて、人生の戦いに送り出すようなものです。生きて帰ってこいと祈りをこめて」
「毎朝起きたとき、「今日は何食べたいかなあ」と考える。そしてその日はかならずそれを食べる。それを繰り返していくうちに、何を食べたいか、つまり自分の意思について考えるようになり、ハッキリとわかるようになり、「あたしはあたし」ができるようになるのです」
「嫉妬の本質は、自分との戦いです」
「日本の女、地声で話そう」
「職があり、家庭を持つ女に言います。職を手放してはいけません」
「「世間体」なんてものは存在しません。人がきゅうくつに生きるために作りあげた言葉です」
「最終的に、育児の目標は、自分は自分でいいのだ、という自己肯定寛を子どもに植えつけてやること」
「基本的に、子どもは親の思いどおりにはなりません。違う人間だからです」
「ところが、結婚には麻薬的な楽しさがありまして、何なんでしょう、この楽しさは、単に相性がいいとか彼が素敵とかなんていう単純なものではなく、人間の根本に、群れたいという本能めいたものがうごめいているからと思えてしかたがない」
「ギャンブル夫。アルコール夫。DV夫。協調できない夫。支配の好きな夫。まだある、いろんな夫たち。それぞれ、夫本人は悪くない。それぞれ、夫は病気や病的な性格にとらわれているだけなんだと考えることができる。支えることこそ妻の役目、と人もあなたも考えるかもしれない。でも、(略)自分には自分の道があるよ、もっとニコニコして、パートナーと対等に人生をやっていける道が、とわたしはあなたに言いましょう」
「介護の基本はただ一つです。人には人の介護のかたちがある、ということ」
(「家庭も仕事も、本当にこのままでいいのかという疑いが・・・」という問いに対して)ここで一歩を踏み出すと、焼け野原になります、人生が」
「夫がいやだ、夫がうっとうしいと思いながら生きている。家庭の中で会話もろくにない、なんて孤独と思っている。(略)ところが、夫が妻より早く亡くなってしまう。そのときに、今まで孤独と思っていたものは、孤独なんかじゃなかった、ただの刺激だったと思い知ることになり、スケールのぜんぜん違う、ほんとの孤独が、大きくぽっかりとまっ黒な口を開けて待っている」
「後悔はします。どんなに介護しても、します。やり遂げたなんて思ってるような介護は、やり過ぎです」