【2152冊目】リチャード・スティーヴンズ『悪癖の科学』
「悪癖」と呼ばれるものにも、良い面はあるはずだ。そうした「確信」に基づいて行われてきた数々のトンデモ実験が、本書ではずらりと並んでいる。
セックス中の男女の脳波をリアルタイムで測定する。悪態をわざとつかせて、痛みに耐えられる時間が長くなるかを調べる。スカイダイビング中の人に記憶力テストをやらせて、普段よりどれくらい「アホ」になるかを調べる……。一番笑ったのは、幽体離脱が本当に起こるかを確認するため、天井を二層にしてわざわざ裏側に模様を描き、死にかかった人に「どんな模様が見えたか」を聞くというものだ(幽体離脱すると天井に浮かんで下を見ていることが多い、という報告から考え付いたらしい)。ちなみに「悪態による苦痛緩和」は著者自身が行ったもので、これによって2010年のイグ・ノーベル賞をもらっているらしい。
で、まあ、結論としては、セックスであれ酒であれ猛スピードでの運転であれ(さらには「ストレス」「サボり」「臨死」まで)、それなりに良いこともある、ということになるのだが、そもそものところ、悪癖というのはメリットをわざわざ提示されなくても誰もがやりたがるものなのだから、あえて言う必要があるのかどうか。それならむしろ、本書の冒頭に掲げられているアメリカのコメディアン、ジョニー・カーソンのこのセリフを味わったほうがよいだろう。
「健康のために、酒もタバコもセックスもグルメもやめた男がいる。
どうなったかって? あっというまに自殺したよ」
人生の楽しみは悪癖にあり。良いことなんてひとつもなくたって、わたしたちは酒を飲み、うまいものを食べ、セックスに耽りたいのである。そのメリットを提示するなんて無粋でしかないのだが、そのためにここまで奇妙な実験を繰り返す科学者たちを見ていると、なんだかかえっていとおしくなってくる。